過度なトレーニングによる無月経や生理不順など女性アスリート特有の健康問題に、道内医療関係者らが危機感を強めている。骨粗しょう症などのリスクを高めるため、将来に甚大な影響を及ぼしかねないためだ。特に成長期の中高生への意識付けが重要だが、進んでいない。22日から道内で全国高校総体(インターハイ)が行われており、無理を重ねる生徒が出る可能性もある。医師らは保護者や指導者も協力して中高生が相談しやすい環境を整えるべきだと訴えている。

 「体重を落としすぎて月経が来なくなると骨密度が低下して、疲労骨折や競技のパフォーマンスに影響するの」

 7月上旬、新札幌整形外科病院の後藤佳子医師(48)が、全国高校総体に出場する道内の女子生徒(15)に諭すように語りかけた。女子生徒は腰痛のため受診。「体重を落とせば動きやすくなるかなと軽く考えていた」と驚いた。現在、生理不順はないが、後藤医師は「身体の成長に応じて症状が出ることもある」と指摘し、鉄分摂取やおにぎりを1個多く食べることなどを助言した。

 月経が3カ月以上来ない「無月経」や周期が乱れる「生理不順」は、女性アスリート特有の問題の一つ。2014年の国立スポーツ科学センター(東京)の調査によると、国内の女性トップアスリートの約4割にこれらの症状がある。過度なトレーニングや極端な体重制限が原因で、新体操や陸上長距離などの種目で症状を訴える選手が多い。

 疲労骨折や将来の骨粗しょう症のリスクを高めるとされるが、一般の人にも女性アスリートにも理解は進んでいるとは言いがたい。とりわけ中高生や保護者、指導者の理解の遅れは深刻だ。今年、スポーツ庁などが運動部に所属する女子中高生などに行った実態調査によると、月経が止まると疲労骨折などを起こしやすくなることを「知らなかった」と答えた割合が、中高生が69%、保護者は43%、指導者も27%あった。

 10代は骨の形成に重要な時期。骨量は20歳ごろにピークを迎えるため、中高生の時期に十分確保することが必要だ。また無月経が原因となり、疲労骨折を繰り返したり摂食障害を引き起こし、心身ともに不調に陥る事例もある。

 こうした中、中高生への啓発に取り組む競技団体も出てきた。全日本スキー連盟のアルペン・女性活躍推進小委員会は21年度から、オンラインで中高生選手ら向けに生理不順などに関するセミナーを開催し、道内選手も参加している。今年も25日を皮切りに8月まで3回実施する。アルペンスキー元五輪代表で同委員会の川端絵美副委員長は「女子選手には女子ならではの体との向き合い方をよく知ってもらいたい」と話す。

 道内の医療関係者も対策に乗り出している。新札幌整形外科の後藤医師は北大病院に在籍していた19年、婦人科医と栄養士とともに同病院に道内初の「女性アスリート・スポーツ外来」を開設。現在所属する新札幌整形外科病院との2拠点で、社会人だけでなく中高生も診察し、過度な運動の危険性を説明するほか、治療や健康相談に応じている。

 中高生を支える指導者らの意識改革も急務だ。札幌厚生病院の三国雅人医師(61)が、21年度に道内競技団体に女性アスリートの健康問題への認知度を調査したところ、回答した35団体のうち、問題を認識して対応しているのはわずか3団体だった。三国医師は「保護者や指導者が長い目で見て、中高生に意識を向けさせる必要がある。目の前の勝負だけでなく選手の将来も考えてほしい」と訴えている。(久保耕平)

2023年7月23日 18:30(7月24日 02:50更新)北海道新聞どうしん電子版より転載