同性同士の結婚を法的に認めないのは、日本国憲法に反するとして、札幌や東京など全国各地で訴訟が起こされています。日本政府はずっと、結婚は男女の「異性」間でするものだと主張してきましたが、そもそも、その根拠は何でしょうか。自治体が同性カップルを婚姻に相当する関係と認証する「パートナーシップ制度」が全国で広がる中、なぜ同性婚は認められないのか。日本の現状について考えてみます。(東京報道 根岸寛子)

 なぜ日本では同性同士の結婚ができないのですか。

  配偶者を「異性に限る」と明文化した法律はありません。ですが、日本では現在、戸籍の性別が同じ2人の婚姻届は「不適法」として受理されません。民法や戸籍法にある「夫婦」という言葉が男女による婚姻を前提としているためです。政府は、2018年5月に閣議決定した答弁書で「民法や戸籍法において『夫婦』とは、婚姻の当事者である男である夫及び女である妻を意味しており、同性婚をしようとする者の婚姻の届け出を受理することはできない」としています。例えば、体の性と自認する性が一致しないトランスジェンダー女性(出生時の性は男性、性自認は女性)が男性と異性パートナーとして婚姻届を出しても、戸籍に記された性が男性同士であれば受理されません。

  同性婚ができないことで、同性カップルにどんな不利益がありますか。

  法律で認められた結婚ではないため、一緒に住んでいてもパートナーを扶養家族にできず、パートナーが亡くなっても財産相続ができません。所得税の配偶者控除を受けられず、パートナーと子どもを共に育てていても親権を持つこともできません。NPO法人EMA日本(東京)の調べでは、婚姻すると法的なものだけでも約60の権利・社会保障給付が得られるとされますが、同性カップルにはいずれも認められません。また、医療の場面においても、家族と認められず、パートナーの病状についての説明や集中治療室(ICU)での面会、手術など医療行為への同意ができなかったという当事者もいます。本来、治療方針などはその人にしか決められない問題ですが、本人の意識がない時に意見を求められるのは、配偶者や親・きょうだいが通例となっています。パートナーに決めてほしいと思っていても、医療機関側が、法的には他人である同性のパートナーにその判断をゆだねていいのか、法的な親族からクレームを言われたりしないか、などと躊躇(ちゅうちょ)することが多いようです。

  自治体が同性カップルを婚姻に相当する関係と認証する「パートナーシップ制度」では不十分なのでしょうか。

  15年に東京都渋谷区と世田谷区が初めてパートナーシップ制度を創設しました。道内でも17年に札幌が導入し、その後、江別、函館、北見、帯広、苫小牧、岩見沢、北斗の各市に広がっています。NPO法人「虹色ダイバーシティ」などの調査によると、23年1月時点で255自治体が導入し、4千組以上が認証されています。自治体の中には、同性カップルの子どもも含めたファミリーシップ制度を設けているところもあります。札幌市も4月からパートナーに未成年の子どもがいる場合、宣誓書受領証に子の名前も記載できるようになりました。パートナーシップ制度は、自治体によっては証明書が発行されたり、公営住宅の入居が可能となったりするケースもありますが、法的な効力はなく、法律婚のように配偶者としての権利を行使することはできません。象徴的な意味合いが強く、医療機関や民間企業が認めるとも限らず、先に挙げた不利益の解消にはなりません。

  日本国憲法は同性婚を禁じているのでしょうか。

  政府は18年5月の答弁書で「憲法24条第1項は『婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立』すると規定しており、当事者双方の性別が同一である婚姻の成立を認めることは想定されていない」と記しました。国は同性婚訴訟でも、「両性」という文言は男女を表しているから、憲法は同性婚を想定していないし、異性の結婚と同じ程度に保障する必要はないと主張しています。ですが憲法で「想定されていない」とするだけで、「違憲である」とは主張していません。

  同性婚訴訟ではどういうことが争われているのですか。

  「結婚の自由をすべての人に」訴訟と呼ばれる集団訴訟が2019年以降、札幌、東京、大阪、名古屋、福岡の5地裁で起こされました。裁判では、同性婚を認めない民法や戸籍法など現在の法制度が、「法の下の平等」を保障する憲法14条や、「婚姻の自由」や「個人の尊厳と両性の本質的平等」を定めた憲法24条に違反するのかどうかが争われています。訴訟の目的は現行制度が違憲であるという司法判断を得て、同性婚の法制化につなげることです。「違憲」「違憲状態」「合憲」と判断が分かれましたが、24条の解釈については、異性婚を想定しているものの、同性婚を禁じるものではないという点で一致しています。

 現行制度について札幌と名古屋は「違憲」、東京と福岡は「違憲状態」、大阪は「合憲」と判断しました。「男女が結婚して子を産み育てる」という「伝統的な家族観」の変化や同性婚を巡る議論の状況をどのように評価したかなどで、司法判断が分かれた形です。札幌地裁は21年3月、同性カップルが婚姻による法的効果を受けられないのは「合理的根拠を欠く差別的取り扱いに当たる」として、14条違反と結論づけました。さらに踏み込んだ23年5月の名古屋地裁判決は、男女が子を産み育てるという「伝統的な家族観」が唯一絶対ではなくなってきていると指摘し、同性カップルが大きな不利益を受けている現状を放置するのは「個人の尊厳」の観点から「合理性を欠く」として、14条だけでなく、24条2項と14条にも違反すると結論付けました。

 東京地裁は22年11月の判決で「同性愛者についてパートナーと家族になるための法制度が存在しないことは、同性愛者の人格的生存に対する重大な脅威、障害だ」と指摘した上で、「個人の尊厳に照らして合理的な理由があるとはいえない」として「憲法24条2項に違反する状態にある」としました。23年6月8日の福岡地裁判決も、「同性カップルに婚姻制度の利用によって得られる利益を一切認めず、自らの選んだ相手と法的に家族になる手段を与えていない」現状の法制度について、個人の尊厳に立脚した法整備を求める24条2項に照らして、違憲状態であると指摘しました。

  伝統的な家族観に基づく現行の婚姻制度は定着しており「合理性がある」として「合憲」と結論づけた22年6月の大阪地裁判決は、一方で「社会状況の変化によっては、同性婚について法的措置がとられていないことが将来、憲法24条2項に違反する可能性はある」とも言及しています。

  司法の「警告」は強まっているように見えますが、国会では同性婚について議論されていないのですか。

  憲法や関連法制調査などを行う衆参両院の憲法審査会でも、憲法24条や同性婚に関する議論はほとんど行われていません。23年3月初旬の衆院憲法審査会では、立憲民主党議員が同性婚をテーマに取り上げ、「同性婚を可能にしなければ、LGBTなど性的少数者への差別は解消しない。同性同士で結婚できないというのは、法の下の平等を定めた憲法14条に反するのではないか。LGBTの方々の自由、幸せを追求する権利を私たち政治家が奪ってはいないか」と発言し、憲法に深く関わる同性婚の問題について、憲法審査会で議論するべきだと主張しました。ですが自民党の反対もあり、憲法審査会では主要テーマとして取り上げられず、現在も議論は深まっていません。

  同性婚の法制化を巡っては岸田文雄首相も23年2月の衆院予算委員会で否定的な考えを示しています。自民党はもともと伝統的な家族観を重視する保守系議員が多く、同性婚などに否定的ですが、首相も「極めて慎重に検討するべき課題だ」と述べました。その理由として「家族観や価値観、社会が変わってしまう」ことをあげました。当時の荒井勝喜(まさよし)首相秘書官は記者団のオフレコ取材で、性的少数者や同性婚について「見るのも嫌だ」などと差別発言をしました。首相は「言語道断の発言だ」と荒井氏を更迭しましたが、荒井氏の発言はそもそも首相の「社会が変わる」発言についての補足説明として語られたものです。

  19年には立憲民主、共産、社民の野党3党が衆院に共同提出した同性婚を認める民法改正案が、審議されないまま廃案になりました。LGBT当事者を支援する一般社団法人「fair」(東京)の松岡宗嗣代表理事は「日本で性的少数者の法的な権利保障の議論が進まない背景には、『結婚は男女でするもの』と考える保守層の支持を受けている議員の影響が少なからず考えられる」と指摘します。

  海外の状況はどうですか。

  同性婚は01年に初めてオランダで法制化され、米国や英国、フランス、カナダなど34の国や地域に広がっています。アジアでは19年に台湾が初めて同性婚を認めました。先進7カ国(G7)の中で、同性カップルの法的保障がないのは日本だけです(イタリアは登録パートナーシップ法で法律婚と同等の法的保障がある)。海外で同性婚をしても、日本では配偶者としての在留資格が認められないため、日本での生活が不安定な立場におかれている外国人と日本人のカップルも少なくありません。

  日本企業にとっても深刻な問題です。同性婚ができる国への人材流出や、海外からの高度なスキルを持つ労働者とその家族を受け入れる上での障壁となっていると指摘されています。経団連は17年の提言で「LGBTの理解促進や多様な人材の存在を前提とした環境・制度整備が必要である」と述べています。23年2月には、パナソニックホールディングス、日本コカ・コーラなど大手企業13社と当事者団体が「企業・国家・国際社会の維持、発展のためにも、あらゆる分野において性的少数者を取りこぼさないための施策に取り組むことが急務」として、政府に差別禁止や同性婚の法整備を求める要望書を提出しています。

  世論は同性婚に反対しているのでしょうか。

  国立社会保障・人口問題研究所や広島修道大などの研究者が19年に行った全国意識調査では、同性婚に「賛成」「やや賛成」の回答者は64・8%と、15年の前回調査から13・6ポイント上昇しています。特に20代では83・8%が賛成しています。北海道新聞社が2023年4月に行った全道世論調査でも、同性婚を「認めるべきだ」と答えた人は72%で、「認めるべきではない」の23%を大きく上回りました。同性婚を容認する回答は、同じ質問を始めた21年から3年連続で70%を超えています。

 こうした日本の現状を、当事者や支援者はどう感じているのでしょう。

  首相や首相秘書官の発言が問題化した後、同性婚の実現を目指して活動する公益社団法人「Marriage For All Japan ―結婚の自由をすべての人に」(東京)は全国の同性婚訴訟の原告たちの声を集めたリーフレットを作りました。札幌市在住の原告は、こう訴えています。

 「見るのも嫌だ。隣に住んでいるのも嫌だ。」と言われても、私たちは今までもこれからもあなたの身近に暮らしています。共に生きているのです。「同性婚を認めると社会が変わってしまう」とも言われましたが、何も変わらないと思います。同性同士の結婚を利用する必要がないと考える人は、今までと何も変わらない生活ができます。国は捨てられませんし、滅びません。唯一変わるとしたら、結婚するかしないか同性同士で生きる人にも選択肢が開かれて、今よりもっと自分たちの人生を主体的に考えられるようになる人々が増えることです。

 もっと沢山の人が自分の生き方を明るく前向きに考えられる、そんな素敵な社会が訪れますように…。どうか皆さんと力を合わせてこれからも共に進んでいけると嬉しいです。

 同性婚の実現を願う訴訟原告や同性カップルの人たちの思い、訴訟を巡る経過などは、「結婚の自由をすべての人に」のホームページ(https://www.marriageforall.jp/)で読むことができます。

2023年6月8日 15:16(6月8日 18:55更新)北海道新聞どうしん電子版より転載