医療者を目指す道内の高校生による地域医療の体験活動報告会と討論会が、オンラインで開かれた。全道各地の16校から約130人が参加した。報告会では、地域の病院で体験し学んだことや医療が直面する課題について調べたことを発表した。討論会では、「人工知能(AI)で地域医療は変わるか」をテーマに話し合い、同じ目標を持つ若者同士が考えを深めた。

■医師の労働環境改善を/かかりつけ医普及必要 無痛分娩が少ない日本/在宅医療の担い手不足

 3月21日に開かれた。いずれも旭川医科大が、地域に根差す医療者を高校在学中から育てるため、高校や病院の協力を得て、1、2年生を対象に毎年3月に開催。報告会は13回目、討論会は12回目。報告会では6校の12チームが発表した。

 旭川東高は2月に訪問した富良野協会病院(富良野市)での地域医療の1日体験活動を報告した。午前は診療科の研修や検査科の実習を受け、午後は「地域で働く医師を増やすためには」をテーマに医師たちと意見を交わした。生徒は「労働環境の改善が必要だ」「地域の中心となる病院は、地元の開業医と大学病院の両方との連携が大切だ」などと考えや感想を語った。

 釧路湖陵高は「救急車の有料化」を考察した。救急搬送の4割が軽症者という現状を示し「不要不急の利用が救急隊員の労働環境悪化や急患の治療開始の遅れにつながる」と有料化を検討した。だが有料化は「呼ぶのをためらうなど、助かる命が助からなくなる危険がある」ことも分かった。民間救急車の活用や「救急車利用に関する教育や呼びかけも大切」と提言した。

 札幌西高は脳死移植について同校1、2年生へのアンケート結果を交え発表した。脳死移植を「説明できるくらい知っている」が14%、「何となく知っている」が72%、「あまり知らない」が11%、「初めて聞いた」が3%だった。日本で移植数が少ない理由の一つに「意識の低さ」を挙げ、国民の関心を高めるとともに臓器提供の意思表示を義務化することを提案した。

 札幌光星高は「求めるべき地域医療」というテーマでかかりつけ医の普及が必要だと説いた。日本は、地方で医師が不足し、医療機関中心の体制で、かかりつけ医の認知度が低く「ベストな医療が実現できていない」と指摘した。地域のかかりつけ医は、患者の大病院への橋渡し役で住民と医療との距離を縮める存在でもあり育成と普及が解決策になるとの考えを示した。

 函館中部高は出産時に陣痛の痛みを麻酔で和らげる無痛分娩(ぶんべん)が日本では約6%と少ない原因を探った。同校の保護者アンケートや研究論文を調べた結果、無痛分娩を知る人は多いが胎児の影響への懸念や麻酔への抵抗感などがあり、選ぶ人が少ないと考えられた。「医学は進んでいる。印象を改善すれば自然分娩や帝王切開と同等の選択肢になるのではないか」と結んだ。

 北見北斗高は北見市で在宅医療に取り組んでいる医師への聞き取りを交え報告した。医師は自宅や施設に住む130人以上の患者を抱え、月に280件の訪問診療を行っていた。北見市では在宅医療の担い手はどの職種も足りず、自宅死の割合が低かった。「希望者全員が在宅医療を受けられる環境ではない。制度の充実や介護者の支援策が求められる」と指摘した。(編集委員 岩本進)

■AI活用 画像診断など期待討論会

 討論会では医療の分野でも導入が進む人工知能(AI)を取り挙げた。地域医療では具体的にどんなAIが役立つか、どのような課題の改善につながるか―。参加者は20班に分かれ話し合い、代表して三つの班が発表し、全員で討論した。

 ある班は、AIは事務作業の効率化や画像診断の補佐に役立つ、と発表した。事務作業では自動問診や会計・予約の簡略化などで負担軽減になる、画像診断は精度が向上すると説明した。ただ、AIの画像診断は「医師の負担軽減につながるとの意見がある一方、診断結果を医師が確認すれば仕事量は変わらないという意見もあった」と話した。

 別の班は、地域の在宅患者の血圧や体温などを記録し判断するAIが有用ではないか、と指摘した。「医療者がいつでも患者の情報を取り出せ、患者が気付かない異変もAIが知らせてくれる」と述べ、「患者が遠くの病院に行かなくても医療者が患者の体調を把握できる」と利点を話した。

■「参考になる意見多数」

 報告と討論を聞いた、旭医大の西川祐司学長は「地域医療の重要な問題を深く議論し、参考になる意見が多数あった。(医療者として)AIとどう付き合うかは今後さらに重要になる。皆さんが私たちの仲間として、地域の医療や医学の発展に貢献していただければうれしい」と誘った。(編集委員 岩本進)

2023年4月5日 05:00北海道新聞どうしん電子版より転載