「恐竜のまち」として知られる胆振管内むかわ町穂別地区。2月中旬、雪に覆われた団地で、主婦佐藤芳子さん(79)は移動販売車の軽快な音楽を聞いて家の外に出た。

 右足にけがを抱えており、週1回近くまで来る地元農協の販売車と、時折、高齢店主が送迎してくれる近隣商店でのまとめ買いが頼みの綱。いつまでこうして買い物できるのか―。不安は切実だ。

旧穂別町だったこの地区では昨年1月、品ぞろえが最も豊富なスーパーだった農協の店舗が経営難で閉店し、住民が「買い物難民」になる問題が表面化。むかわ町中心部や隣町のスーパーまでは30~40キロあり、佐藤さんは今も「1人分用の商品が少なく、食品が品切れで買えない時も多い」という。

 人口は約2300人。胆振東部地震の影響もあり、2006年の旧鵡川町との合併時に比べて4割減った。65歳以上の割合は43%。50%を超えて共同体の機能が果たせなくなるとされる「限界集落」とはまだ開きがあるものの、少子高齢化が加速する。

 「住民の手で買い物の場を確保しよう」。むかわ町と、穂別の住民有志は2020年、買い物対策などを柱とした新たな地域再生計画の検討を始めた。有志の一人で地区内で菓子店を営む鎌田政博さん(51)は「穂別が生き残る最後のチャンス」と力を込める。

■「持続可能な地域」模索 広域連携、実効性が課題

 北海道胆振管内むかわ町穂別地区の再生計画の特徴は、住民の地域運営への参加だ。

 町は住民有志らとの議論を踏まえて昨年決めた計画に基づき、地区中心部に生鮮食品を扱う商業店舗や公衆浴場などの機能を集約した施設を2026年度までに整備する。施設の運営や管理は、住民主体の地域運営組織である「まちまかない会社」が担う。

 総事業費は約15億円を見込む。施設は町が整備し、町から業務委託や指定管理などを受けるまかない会社は閑散期の農家や元気な高齢者に働いてもらい、町の支援や販売収入などから報酬を支払う==。住民票の発行など公的な業務も検討している。

自らがサービスの担い手となるため、住民側にも新たな負担が生じる形になるが、住民有志の鎌田政博さん(51)は「さらに人口が減っても住み慣れた地域で豊かに暮らし続けるには、企業や行政頼みではいけない」と話す。

 課題はどれだけの住民に参加してもらえるかだ。竹中喜之町長は住民理解の必要性を強調した上で「行政、住民が役割分担を図りながら人口減少時代を生き抜くモデルに挑戦したい」と語る。

人口減少が続く地域の暮らしをどう維持していくのか。むかわ町と連携する道総研北方建築総合研究所(旭川)の石井旭主査は「厳しい現実を直視し、住民と合意形成を図りながら持続可能な地域をいかにつくれるかが問われている」と指摘する。

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 冬だけでも中心部に住んでみませんか―。士別市は新年度、郊外に住む高齢者を対象に冬季の一時移住の実験を始める。

 人口1万7千人の士別市は、道内市町村で8番目に広い面積に居住地区が分散する。実験は郊外に比べ病院や買い物、交通、除雪などの機能が整う中心部に一時的に住んでもらうことで、安心安全を提供し、市外転出を防ぐ狙いがある。

昨年、70歳以上だけで構成される郊外の高齢世帯に調査を行ったところ、回答した228世帯のうち計26%が「利用したい」「条件付きで利用したい」と答えた。新年度は数世帯程度を募集し、市有住宅の空き室に11月以降、住んでもらい、将来的な本格実施へ課題や改善点などを聞く。

 ただ、住み慣れた地域を離れるハードルは高い。道内では過去に旭川市の西神楽地区などで冬季集住に向けた試みが行われたものの、定着しなかった。実際、士別市郊外に住む80代男性も冬の移住に関心を示しながら「家財道具をどうするのか。先祖の仏壇も置いていけない」と漏らした。

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、20年に約520万人だった道内の人口は45年に400万人まで減少し、現在の179市町村のおよそ半数が人口3千人未満の規模となる=表=。急速な人口減の中で、住民の心情や日々の暮らしに配慮しながら持続可能な地域への模索が続く。

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 一方、地域での暮らしの維持に加え、道内の人口減を巡る課題となっているのが中核都市の人口の「ダム機能」の低下だ。ダム機能とは川をせき止めるダムのように、一定規模の都市が周辺地域からの人の流れを受け止める機能を指す。

 だが、同研究所の推計では、既に人口減が加速している小樽、岩見沢、室蘭市などは20年から45年までの減少率が4割に達する=グラフ=。札幌一極集中の流れも相まって、ダム機能は崩れつつある。

その対策として注目されるのが、自治体の枠を超え「圏域」単位で機能を役割分担する考え方だ。

 オホーツクの中核都市・北見市と、美幌、津別、訓子府、置戸の周辺4町は19年、広域連携に取り組む国の制度「北見地域定住自立圏」を発足。人材難に伴ってサービス低下が懸念される障害者福祉分野で、専門人材の共有を含めた踏み込んだ連携を進めている。

北見市に障害者支援の総合相談窓口となる拠点施設を設け、運営委託する社会福祉法人の精神保健福祉士などの資格を持つ専門職員が常駐。広域的な入所先の調整などにあたっている。

 北見に人材を集めるだけでなく、専門的な取り組みを行ってきた美幌療育病院には子どもの発達支援に携わる作業療法士1人を配置し、人材を補い合う。今年2月には若手職員が集まり、政策の企画立案に関する研修を開くなど連携の深化を目指している。

 北見市企画政策課は「行政サービスが低下すれば都市部への人口流出はさらに加速する。今ある人材や資源をできる限り共有し、住民が暮らせる環境の維持を図るしか道はない」と言い切る。

道内各地で取り組みが進む広域連携。だが、いまだに各市町村の「縦割り意識」が根強いこともあり、具体策は観光や移住のPRをはじめ各地域横並びの内容が多い。利害関係が絡みやすい医療福祉や交通の分野のほか、公共施設の整備や人材共有など「本気の連携は道半ば」(道東の首長)なのが実情だ。

 道内各地で人口が急減する中、従来の発想や枠組みのままで地域の暮らしや行政サービスを守り続けていけるのか。持続可能な地域づくりに向け、自治体の知恵と工夫が問われる局面だ。(報道センター 小宮実秋、金子俊介)

 

■北大の宮脇淳名誉教授に聞く

 人口減少が加速する中で、どのように地域づくりを進めるべきなのか。北大の宮脇淳名誉教授(行政学)に聞いた。(聞き手・小宮実秋)

みやわき・あつし 東京都出身。日大法学部卒。経済企画庁(現内閣府)などを経て、北大公共政策大学院長や政府の地方分権改革推進委員会事務局長などを歴任した。


 国は東京一極集中の是正を掲げながら、抜本的な政策をとらず、むしろ子育て支援など都市部に若年層が集まりやすい方向に転換しています。これでは若い人が大都市に移る流れに歯止めはかかりません。

 人口減が進行する地域を一日でも長く維持するには、市町村より大きな「圏域」単位で物事を考え、行政の役割を分散させることが不可欠です。ただ、市町村だけで進めるのは体力的に難しい。広域自治体の道が市町村と向き合い、道内に人を残す方策を国と議論しながら示さなくてはいけません。

 市町村は、定住人口の増加に限界があるという認識を住民と共有することが必要です。活気を維持するには観光客などの取り込みも欠かせません。観光資源が多くない地域もありますが、例えば、圏域内で飲食物の供給地や加工場所などを分担し、経済効果を各地域に波及させる方法があります。

 圏域化を進める中で、移動手段や物流網をどう残すかも重要。高齢者も病院に行く足がないと都市部への移住が進みます。鉄道や道路など、どこに力を入れていくのか戦略的に考えなければなりません。

 また、小規模自治体こそ情報通信技術(ICT)を活用すべきです。課題となる都市との教育格差などを一定程度埋めて子どもたちに人生の選択肢を提示できるほか、希薄になりつつある住民同士のつながりを守る手段にもなります。

 人口を増やし、財政的に豊かになるという右肩上がりの時代は限界を迎えています。地域を維持する仕組みをつくるため、住民理解を図りつつ、優先順位をつけて政策を進める必要があります。

2023年3月3日 08:30(3月3日 18:51更新)北海道新聞どうしん電子版より転載