「大豆ミート使用」

 スーパーなどでこんな表記がされている商品を見かけることが増えてきました。

 豆も好きですが、やっぱり肉が一番好きな私。これまでは、いつもの肉に手が伸びてしまっていましたが、それでも、店頭で目立つように置かれるようになると、関心は自然と高まっていきます。

 札幌市中央区の自然食品専門店「らる畑」に大豆ミートの最近の売れ行きを聞いてみました。

 「人気は間違いなく高まっていますよ。10年以上前から置いていますが、2~3年前からでしょうか、よく売れるようになりましたね」

 橋本まほろ代表が店内に陳列した大豆ミート商品を手に取りながら教えてくれました。

そぼろ状になっていてひき肉のように使えるもの、焼き肉やしょうが焼き用にスライスしたもののほか、マーボー豆腐の素にも「大豆ミート入り」の表記がありました。

 購入者の多くは若年層だそうです。「低脂質で高タンパクなものを食べたいと考える健康志向の強い人が購入しています」(橋本さん)

確かに大豆にはヘルシーなイメージがありますが、実際の栄養価はどうなのでしょうか。文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」を基に豚ひき肉と大豆ミートの素材である「粒状大豆タンパク」の栄養成分を比べてみました。

大豆ミートは水に戻して使用します。その際、3倍程度まで膨らむため、豚ひき肉300グラムと粒状大豆タンパク100グラムで栄養成分を比較しました。

 タンパク質は粒状大豆タンパクが46・3グラム、豚ひき肉は53・1グラムと大きな差はないものの、エネルギーは豚ひき肉が627キロカロリーに対して、粒状大豆タンパクが318キロカロリーとおよそ半分、脂質は豚ひき肉が51・6グラムに対して、粒状大豆タンパクはわずか3グラムで17分の1にとどまります。一方、豚ひき肉はゼロの食物繊維が粒状大豆タンパクには17・8グラム含まれています。

 「畑の肉」とも言われる大豆。確かに大豆ミートは、豚ひき肉と遜色のない量のタンパク質を摂取した上で、脂質を抑えながら食物繊維も取れることがわかります。

 栄養価の高い健康的な食材として存在感を高めている大豆ミート。ただ、最近はそれだけにとどまらないようです。「先ほどのマーボー豆腐の素のように加工品の中の材料として大豆ミートを使った商品も次々と生まれてきています。より一般的に利用されるようになれば、市場はますます拡大すると思います」(らる畑の橋本さん)

農林水産省「作物統計調査」によると、近年の国内の大豆の収穫量は20万トン前後で推移しています。2021年産はそのうち4割を北海道産が占めています。納豆やみそ、豆腐の原料など、用途の広い大豆に、大豆ミートの新たな需要が上積みされれば、北海道での大豆の生産は増大するのでしょうか。実は、そう簡単に進まなさそうな事情もあるようなのです。

■拡大する「代替肉」市場、道内でも参入

 全国小売店の販売データを分析する調査会社インテージ(東京)によると、大豆のほか、小麦、エンドウ豆などの植物性原材料で作られた「肉代替品」の市場規模は年々拡大しています。2019年は4億7千万円だったのに対し、2021年は25億6千万円。わずか2年で5倍以上になっています。

インテージのモニター調査によると、肉代替品の購入者は女性が多いそうです。健康やダイエットといった目的で、購入している人に加え、「(大豆ミートは)食肉に比べて生産過程で温室効果ガスの排出を抑えられ、環境にやさしい食品と言われています。地球温暖化に伴う気候変動への関心も高まっており、『環境のため』と肉代替品を購入している人も多くいます」(リサーチデザイン部)。

 肉を代替する食品としての大豆ミートへの関心の強まりを背景に、北海道内でつくった大豆の良さを広めようとする取り組みが空知管内長沼町で始まっています。

 町内で食品卸売りなどの地域商社を経営する滝川徹也さんは今年4月、町内産大豆を使った「NAGANUMA SOY MEAT(ナガヌマ・ソイミート)」を開発、発売しました。

長沼町は道内有数の大豆の産地です。一方、大手食品メーカーなどが近年相次いで手がけている大豆ミートの多くは原料大豆に海外産を使っています。滝川さんは「大豆ミートに参入する企業は多くありますが、国産大豆を使った商品はまだ少ないのが現状です。北海道産大豆を前面に打ち出すことで、違いを示していきたいです」と語ります。

 もっとも、滝川さんが強調していたのは、その味への自信でした。「大豆ミートを食べ慣れている人からも、『おいしい』と高評価をいただいていますよ」。うーん、そこまで言われたら食べなくちゃいけませんね。

 長沼町では、複数の飲食店がナガヌマ・ソイミートを使ったメニューの提供を始めるなど、少しずつ地元の食材としての普及が進んでいました。レストラン「ハーベスト」で「大豆ミートのキーマカレー」(1350円)をいただきました。

見た目はいつものひき肉とあまり違いはありません。

 食感は、味は、香りは?未知の素材を、恐る恐る口に運びます。

 おお、いけます。うまいですよ、これ!

 歯応えは肉そのもの。しっかりとした存在感があり、食べごたえは十分です。脂肪分が少ない分、あっさりとしていて、がつがつと食べ進めてしまいそうになりますが、これならダイエット中の方でも罪悪感なく食べられそうです。

 同店は「健康志向の方から、興味本位の方まで多くの人に食べていただいています。味もおいしいと好評ですよ」。他にも、メンチカツなど大豆ミートのメニューをそろえており、これからも新メニューを開発するそうです。

 滝川さんは加えて、乾燥素材である大豆ミートの別の用途での利用の可能性も探っていました。「長期保存が可能なため、災害備蓄用品に使うことができるのではないでしょうか。まだまだ需要開拓の余地は多くあります」

 

■需要は広がっても、作付け減を懸念

 大豆ミートが普及すれば、原材料となる大豆も需要は高まるはずです。

 ところが、北海道内での生産は増えるどころか、むしろ減少しかねないとの懸念が浮上していました。

 農林水産省が2021年に示した「水田活用の直接支払交付金」の支給要件の厳格化が懸念の原因でした。道内の農協関係者のなかでは「大豆農家が他の作物に流れてしまうのではないか」との見方が広がっています。せっかく需要が増えそうなのに、どういうことなのでしょう。

 現在、大豆を作付けしている畑の多くは、かつて水田でした。戦後の食生活の転換に従い、コメ余りが深刻化するなかで、政府は減反を進めます。コメから大豆、小麦などほかの作物に転作をすることを奨励し、転作した農地には同交付金を支払ってきました。

 しかし、厳格化によって、現在、大豆を作っている畑はそのままでは「水田からの転作」とは認められなくなります。2022年度からの5年間に一度も稲作のための水張りをしていない畑は、稲作からの転作とはみなされず、2027年度以降、交付金の対象から外すとされているのです。

 現在、大豆を生産している農地を引き続き交付金の対象にするには、いったん稲作に復帰した上で、改めて大豆作りに再転換しなければなりません。すでに、コメ作りから離れて久しい農家、農地も多く、ノウハウや資材がない中での転換は簡単ではありません。「大豆の栽培には手間暇がかかります。交付金の対象から外れてしまうと、大豆以外の作物への転換がより加速しかねません」(農協関係者)との危惧が広がっています。

 一方、大豆を巡る状況は今後、大きく変化する可能性もあります。

大豆は年間の輸入量が300万トンを超えています。国産大豆の生産量は20万トン強しかなく、市場流通量の9割以上は外国産です。とくに米国とブラジルの2国から、安い大豆が大量に流入してきていました。

 国内で多く輸入している米国産非遺伝子組み換え大豆の市場価格は2年ほど前まで1トン10万円前後で安定していました。一方、国産大豆の入札取引価格は15万円を超えることも多く、鮮明な価格差がありました。

 これが、近年の国際市場価格の高騰を受けて、変化しています。農林水産省が公表する資料によると、2022年7月までの米国産の非遺伝子組み換え大豆の1トンあたりの市場平均価格は14万1000円まで上昇しています。これに対し、国産大豆の入札取引価格は16万1800円。なお差はありますが、円安や国際商品価格の上昇などがさらに進んだことを考慮すると、現状はさらに差が縮まっているかもしれません。

 もっとも、市況や為替は今後も大きく変動する可能性があります。そのなかで、輸入物にはない国産大豆の付加価値を高めていこうと工夫している生産者もいます。

 

■海外産にない付加価値を、大豆プロテインという挑戦

 

 北海道産の大豆を使うことによる価値を創出するために、長沼町の大豆農家、桃野慎也さんはこれまでにない大豆加工品を開発しました。自ら収穫した大豆を用いた「ソイプロテイン」です。

桃野さんは農家の4代目として、およそ30ヘクタールの畑で大豆や小麦を栽培しています。また、桃野さんはプロスノーボーダーの顔も持っており、冬期は世界中のワールドカップを転戦しています。

 アスリートとして体調管理をするなかで、桃野さんは国内で販売しているプロテインが外国産の原材料ばかりでできていることに気がつきました。タンパク質を多く含む大豆の特性を生かして、自ら農地の大豆を素材に使ったプロテインを開発しました。

農薬使用を極力控えているほか、肥料も有機肥料が主体の土作りからこだわった大豆です。これまでになかった、「生産者の顔が見えるプロテイン」として、今年7月から販売しています。

 消費者の健康志向の強まりや、環境制約を受けた代替肉需要の高まりなどから、新たな用途が今後も拡大しそうな大豆。国内最大の産地である北海道で、今後、作付けと収量をいかに確保するか。新たなトレンドを地域のチカラにつなげるチャレンジは、まだ始まったばかりです。(デジタル報道チーム 高橋智也)

 


 <北の食☆トレンド>は北海道の味覚や、旬の食材の話題を発掘する新企画です。原則として日曜日に配信します。

 次回は「梨」を取り上げます。

10/09 11:39 更新 北海道新聞どうしん電子版より転載