相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」での殺傷事件から26日で6年。「MIMO」の名前で活動し、かつて園でライブをした東京都のシンガー・ソングライター酒井美百樹さん(49)は、再び入所者と共に歌える日が来ることを願う。知的障害のある長女(18)がおり、植松聖死刑囚(32)へ怒りは激しい。だが憎しみは口にしない。「北風になるより、太陽でありたい」。障害者と家族の幸せな姿を示すことで、考えを変えさせられると信じている。

 「あーちゃん」と呼ぶ長女にはダウン症がある。出産直後は「元気な子に産めなくてごめん」と、負の思考にとらわれた。しかし、成長とともに長女がもたらす幸せを感じるように。作詞作曲した歌には「生まれてきてくれて、私を親に選んできてくれて、ありがとう」と思いを込めた。

 障害者の支援、啓発イベントにも多く出演。津久井やまゆり園でも複数回ライブを開催し、2016年6月も訪問した。

 その1カ月後、事件が起きた。「あんなに楽しい時間を一緒に過ごしてくださったのに」。一緒に歌い、踊ってくれた入所者の笑顔が心に残る。

 自分にできることは何かと考えた日々。当時のブログにはこう記してある。「障害者の家族はいろんな思いを経験しながらも、それぞれの幸せにたどり着き、笑顔の絶えない日々を送っている」「その笑顔を守りたい」。障害者は不幸だと決めつけた植松死刑囚の思想に、静かに反論した。

 19年6月に津久井やまゆり園のお祭りに参加。再会した入所者からハイタッチやハグの歓迎を受けた。カラオケ大会に長女と飛び入りし、大勢の笑顔を目に焼き付けた。

 その後は新型コロナウイルスの影響で、ライブ活動も思うようにできていない。両親の介護も重なり、身も心も休まらない日々が続いている。

 それでも、生活の折々で幸せを感じる。酒井さんの両親がけんかをしたとき、うまく言葉を発せない長女が、突然仏壇の鈴を鳴らした。彼女なりの「やめて」というメッセージ。家族は笑いに包まれた。

 植松死刑囚に言いたいことは山ほどある。「でも責める言葉だけでは、彼は誤りには気付けないでしょう」。童話「北風と太陽」を引き合いに、「厳しい北風ではなく、太陽として、彼に向き合いたい」と話す。

 歌を通じて引き出される、障害者と家族の笑顔が、暖かい日差しとなって植松死刑囚の心に届くことを願う。それでも、もし一言添えるのであれば…。「障害者が不幸と決めつけるなんて、大きなお世話よ」。そう、笑顔で伝えてやりたい。

7/23 08:30 北海道新聞どうしん電子版より転載