「史上"最幸″の国」 | 風に吹かれて マイ・ヴォイス

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なりゆきまかせに出会った話題とイメージで、「世の中コンナモンダ」の生態系をのんびり探検しています。これはそのときどきの、ささやかな標本箱。

 昨日、「すばらしく温順な人たちの国」に暮らしている一人の友人から手紙が届きました。

 温順で温厚な人たちの国?――どんな国か、私は前から興味をもっていました。その友人の話だと、その国は歴史上で「最も幸せ」だということです。とても私の言葉では伝えきれないので、下にその長い手紙を要約してみます。

 

 《 スポーツは非常に人気があり盛んですが、どんなにスコアの差があっても、結果はすべて引き分けになります。悔しがる人もいません。競技場中がおだやかな笑顔に満ちています。/ 子どもやオトナの間でむかし流行っていた「いじめ」は根源から存在しません。「ただただ温順な人」をいじめても何もオモシロクないし、威張ってみても「張り合い」がないからでしょう。/ 警察官は白い制服を身につけ、むかしのような拳銃ではなく、かわりに花束を持っています。パトロールしていてちょっとでも困った人を見つけると、花束から一輪の花を抜いてその困った人を勇気づけます。多くの若い人は警察官にあこがれています。/ 政治家は袖のない制服を着て、いつもニコニコして、国民の為に身を粉にして、身を低くして、働いてくれます。政治家としてやるべきことに高い誇りをもってくれています。ありがたいことです。/ 子どもは試験というものを知りません。進学は、行きたい学校に、行きたいように行けます。ただ、むかしあった学習塾はその役割を見失い、その教師だった人は「子どもの友人」という新しい仕事に就いているようです。/ どんな職種や立場の人にも、まったく同じ万ポ計が体と脳の2か所にセットされていて、その万ポ計は、人の働きや動作を昼夜24時間計測します。その結果、生まれてくる子どもの数も確実に増えています。そして万ポ計の示す数字の合計が給料や支給金に換算されて、自動的に振り込まれます。仕事には驚くほど、差別がありません。/ さらにすばらしいことに、脳にセットされたほうの万ポ計を使うと、寝るときに見る夢を3つのモードから選べます。夢のモードには「幸福・普通・不幸」の3つがあり、なぜか「普通」に人気があるようです。ぼくも「普通」を使っています。/ みんなが幸せなのですから悩みもなく、宗教は観光宗教だけが残っています。/ 笑顔の暮らしのせいで、病気になる人はまずいません。かつて医者だった人は老人の話し相手とサポートが主な仕事で、老人社会をしっかりと支えてくれています。/ 訴訟もほとんどなく、弁護士は人々の事務代行が主な仕事になっています。

――(中略)――   太初のこの世には、闇以外に何もありませんでした。そこから始まって、今この国では、こんなにも幸せな世の中が現前しています。変われば変わるものだと思います。人間は本当にすごい可能性をもった生き物です。誇らしく思っています。――とにかくこのように、ぼくは家族とともに温順で温厚なすばらしい国で暮らしています。ご安心下さい。 敬具 》

 

 前記の(中略)の部分にも、本当に意外で面白いことが山ほど書かれていました。が、ここに書き写すのも大変なのでやむを得ず省略させてもらいました。かつての大航海時代にエキゾチックな異国を見聞した船乗りたちの気分も今の私のようなものだったかもしれません。

 言うべき言葉も見つからないまま2日たったとき、その友人から 《追伸》 が舞い込みました。

 ――その追伸には、日本の冬から春への変わり目の不順な天候への気遣いや、彼らしく、家族の消息などがていねいに書かれていましたが、《最近、生成AI なる魔法のようなワザがすべての国民に行き渡り、浸透し、この国の人々の笑顔がみんな同じに見えてきて、若干面食らっています。考えていることも、どうも、みんな同じようなのです》 と、少しヒヤッとすることも書かれていました。   

 

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