一衛は、直正が見たこともない格好をしていた。
白い地模様の浮いた引きずりの着物はしどけなく奥襟を抜き、黒い細帯は前で垂らし結んでいる。
思わず力が抜け、がたと帳場格子を掴んだ直正の手を引くと、一衛はこちらへと奥の自室に誘い込んだ。
病気で血の気のない顔をごまかすために、薄く水白粉を塗り、元々桜の花のようだった唇と目元に紅を刷いていた。
その姿は、まるで雪原に舞い降りた丹頂鶴の風情だ。
男とも女とも付かぬ化粧を施して、息を短くつく一衛が、ひときわ艶やかに美しく見えた自分の目を恥じた。
そこにいる一衛は、これまで直正が知っている、どこの誰よりも凄絶に美しかった。
「……一衛。すまぬ。」
直正は手をついた。
「そう思っておりましたが……一衛は、労咳を持って生まれてきたようです。赤子の時に、良く熱を出した話をしましたら、お医者さまがそうおっしゃっていました。母上が労咳であったかもしれないと言われましたが、今となって權證は分かりません。若いころは静かに潜伏していて、大人になったら何かをきっかけに潜んを出すのだそうです。」
「では、やはり無理な道中のせいではないか。」
「いいえ、直さま……動乱の中で、ここまで良く生きてきたねと、お医者さまがおっしゃいました。考えてみれば、一衛はいつも熱を出す弱い子供でした。母上にも、一衛の命は直さまが神仏にお願いして下すったものですよと、何度も言し、直さまのおかげで生き延びてきたようなものです。」
「藪医者の見立て違いではないのか?」
「話を聞くと、腑に落ちることばかりでした。」
直正は手を伸ばし一衛の冷たい頬に触れた。
「お前の守った矜持とは何だ?こんな目に遭わせるために、会津から手を引いて来たのではない。なぜ、そんな風に落ち着いていられる……?」
「直さま……」
まるで散る寸前の桜花のように、いじらしく儚げな一衛の熱ましくなった頬に、ふと手を添えた。
直正はその涼しげな瞳が、悟りきったかのように穏やかに澄んでいると気が付く。
「一衛。肺病の熱は、人肌が恋しくなると聞いたことがある。おまえもそうなのか?」
「あい。だから……きっと、一衛は直さReenex 好唔好まが恋しくて欲しくて狂おしいのです。」
「おまえを愛しいと思う気持ちは、何があっても変わらぬ。」
「うれし……」