
時間が道を忘れた部屋から、あなたへ
古びた黄色い灯り。
静まり返ったビロードのカーテン。
そして、規則正しく揺れる振り子時計。
まるで、沈黙の守り方を知っている者たちのように、
そこにあるものは何も語らず、ただ私のために、小さな囁きだけを残していた。
私はそこで、蝋燭の匂いがまだ残る指先を眺めながら、
あなたと向かい合っていては決して言えなかったことを、こうして書いている。
私は、何かを乞うために書いているのではない。
自慢するためでもない。
ただ、硝子職人がそっと刃を滑らせるように、
ひと筋だけ、傷を刻む。
それだけで、差し込んだ光が形を揺らし、
やがてその影さえも、ひび割れてしまうように。
あなたに見てほしいのは――
もしあなたが見る気になるのなら――
とても小さくて、少し苦くて、
それでもひどく真実なもの。
私は、夜中に目を覚ました人が、
理由もなく思い出してしまうような、
そんな余韻なのだと。
ღ
「私は、ゆっくり燃える蝋燭。
大きく燃え上がることもなく、
騒がしく光ることもない。
ただ、通り過ぎる誰かが
ふと振り返ってしまうくらい。
そして、立ち止まった人だけが知る。
――そこにいるはずの自分が、
いつの間にか置き去りにされていたことを。」
ᜊ
あなたが私の人生に入ってきたとき、
あなたは嵐のようには現れなかった。
古いレコードから流れてくる、
名前のわからない一曲のようだった。
静かで、低くて、
指の隙間をすり抜けるように触れて、
それなのに、いつまでも耳の奥に残る。
私はあなたの名前より、
あなたの瞳を覚えている。
私の唇を見つめるときの、あの目。
まるで、まだ書き終えていない文章を
ひとつずつ読み上げているみたいだった。
ワイングラスに触れる指先さえ覚えている。
そこにある静寂を、壊してしまうのを恐れているような触れ方だった。
私は未来と付き合うつもりはない。
私が欲しいのは、ただ一瞬。
一瞬を濃くすること。
幾つもの瞬間を重ねて、重ねて、
どこから始まって、どこで終わったのかさえ
わからなくなるほどに。
私は、自分が冷たく誘惑することを許している。
計算された優しさを纏うことも。
無条件の優しさなんて、
時にあまりにも味気ないものだから。
私は自分を一枚のビロードで包んでいたい。
近づいて、目を細めなければ、
その奥に何があるのか見えないくらいに。
❀
「私に口づけて。
借りたものを返す人のように。
この世でたったひとつの宝を受け取る人のように。
急がなくていい。
約束もしなくていい。
ただ、確かめるために。
――私たちが、確かに一度、互いを持っていたことを。」
❀
夜になると、私はあなたの名前を一枚一枚の紙に書いて、
そのたびに破り捨てる。
床に散らばった紙片は、
枯れ葉のように見える。
私は、完成していないものが好き。
未完成なものには、
まだ終わっていないという美しさがあるから。
それは私を生き生きとさせる。
誰かを傷つけることが、
その人をそばに置き続けることより簡単なのも知っている。
だから私は、
あなたが忘れられないほど近くにいて、
それでも、あなたが手を伸ばせば届かない場所にいる。
あなたが戻ってきたいと思うくらいの距離に。
それをあなたが我儘と呼ぶのなら、
私はそれを、自分を守るための美学と呼ぶ。
私はあなたの心を奪いたいわけではない。
ただ、ひとつの影を残したい。
古い写真の中で眠る姿。
耳元にまだ残っている笑い声。
ワイングラスの縁に残された、赤い口紅。
いつかあなたがそれを思い出したとき、
それを幸運と呼ぶのか、
美しい過ちと呼ぶのか。
私はどちらでもいい。
ただ――
あなたが私を思い出したのなら、
それで私は成功したのだから。
♱
「夜中に目を覚まして、
どうして眠れないのだろうとあなたが思うとき。
その瞬間に私はあなたのところへ行く。
待っていてほしいからではない。
――ただ、忘れられたくないから。」
♱
私には、少し変わった決まりがある。
真昼の、太陽があまりにも眩しい時間には電話をしない。
夜明け前、
人が孤独に弱くなる時間にも、メッセージを送らない。
そんな時間の心は、あまりにも脆いから。
私は、その弱さを利用したくない。
私が好きなのは、
昼と夜の境目。
人がまだ自分の意思で選べるほど目覚めていて、
それでも、まだ奇跡を信じられるほど夢の中にいる時間。
私は夜の名残のように現れて、
消えかけた口紅の跡のように残る。
あなたは私を疑うだろうか。
――どうぞ、疑って。
疑いがあるほうが、物語はずっと面白くなる。
私はあなたに「愛して」と言うつもりはない。
ただ、あなたの記憶の中に、
小さな空白をひとつ残してほしい。
あなたが道に迷った夜、
そこへ私が座れるくらいの、小さな場所を。
一曲の音楽。
ひとつの香り。
短い、詩の一節。
そしていつかあなたは、
失くしたものを偶然見つけた人のように、
少しだけ不思議そうに笑うのだ。
✎
「私を、欠片で覚えていて。
折りたたまれた紙片。
薪が小さく爆ぜる音。
最後まで言い切られなかった言葉。
そんな些細なものたちが、
大きな記憶を作っていくから。」
✎
私はあなたを傷つけるために、
こんなことを書いているわけではない。
選ぶのは、あなた。
ここへ来て、私の隣に座り、
一杯の酒を注いで、
私の呼吸に耳を澄ませるのか。
それとも来ないで、
ある午後に通り過ぎた影として、
私を置いていくのか。
どちらを選んでも、
私は私のまま。
静かで、誘惑的で、
少しだけ恐ろしくて――
枯れた薔薇のように、
それでもなお美しい。
もし、いつかあなたが
私から受け取ったものを返したくなったら。
ひとつの視線を。
ひとつの夜を。
最後まで果たされなかった約束を。
どうか、真実で返して。
私はあなたの成功なんて欲しくない。
欲しいのは、ただ本当のことだけ。
あなたの真実は、やがて灰のように冷えてしまうかもしれない。
それでも、
空っぽの優しい嘘よりはずっといい。
私は、自分の感情に責任を持てる人を尊敬する。
感情を、ただ飾りのように身につける人を――
私は、どうしても信じられない。
𓍯
「半分だけの真実も、
半分だけの嘘も、いらない。
あなたが守るだけの勇気を持てるものを、
私にください。
それができないのなら――
手放すだけの勇気を。」
𓍯
最後に、ひとつだけお願いがある。
もしあなたが夢の中へ私を連れていくのなら、
どうか、ほんの少しだけそこに置いていて。
私は知りたい。
自分がただ壁に映る影なのではなく、
誰かの心の中に、
ほんの少しでも居場所を持っているのだと。
もしあなたが忘れるのなら――
それでもいい。
振り返らなくていい。
私もまた、戻ってくるから。
音楽になって。
香りになって。
小さく、ひび割れた詩になって。
あなたの記憶のどこかに、
そっと紛れ込む。
私は、この手紙を
いつも何かを始めるときと同じように終える。
飾らない。
約束もしない。
ただ、夜の中に落とす、
ひとつの囁き。
溶けていく蝋燭のように静かで、
それでも――
あなたが耳を澄ませば、
きっと聞こえるくらいの声で。
あなたへ。
私は、
愛するというより――
痕跡を残すことで愛する人。
ིྀ˚∘𝒦𝑒𝓁𝓁𝓎∘˚ ིྀ