「寒いよう」
マッチ売りの少女は、かじかんだ指に息を吹きかけた。短い髪にスカーフを巻き、薄いペラペラの服でおなかがペコペコなのも、寒さをつのらせた。
でも家には帰れない。マッチが今日は一個も売れていないのだ。原因はわかっていた。この町に激安ショップができて、今はワンコインでライターが買えるからだ。
少女は疲れ切って、ある家の壁に寄りかかった。すると家の中から楽しそうなたくさんの声が流れてきた。その声に誘われて、少女は窓の中を覗き込んだ。誕生日会をしていたらしく、主役らしい少年の回りには親や友達の姿、テーブルには食べ残したうまそうな料理。次に出て来たデザートはアイスクリーム。
少女にとってアイスは、ひと夏に一度くらいしか食べられない夏の日の楽しみ。それを、こんな寒い冬の日に出すなんて、家の暖房がよほど効いているお金持ちの家なんだ。そう思うと、今の自分との違いに気がさらに重くなって少女は呟いた。
「寒い、眠い。このまま眠ってしまおう。そうすれば優しかったおばあちゃんと天国で会えるわ」
少女が地面に身を横たえ、目をつぶろうとした時だった。ツカツカと足音が近づいてきた。中年の女だった。
「まあ、こんなに冷たくなって」
少女を見つけ、自分の着ていたコートで小さな体をくるみ抱き寄せた。「あなたのお父さんは児童虐待で警察に逮捕してもらったわ。あ、今日本語で言ったけど通じたかしら?」
「日本語、わかります」
「さすが、噂通りの天才少女ね。自己紹介すると、私は日本のテレビ局の人間よ。番組で世界の児童虐待について調べてたら、たまたまあなたの事を知ったの。一歳未満で大人並みに読み書き話し、好きな場所は図書館であっという間に全書籍読破、お次は図書館のパソコンで世界の情報を調べて知らぬ事はない、って言うのはホント?」
「はい」
「そんな天才少女なのに、なぜお父さんから逃げなかったの? それに私が来たからいいものの、あなたは死のうとしていた」
「父は母が死んでから変わったんです。そんな父を見捨てられなくて。でも、そんな生活にも疲れました。それに、世界を知れば知るほど、人間の心の闇は根が深かった。それに対して私が考えた人間救済の方法は、余りにも難しくて誰にも理解できないだろう。それならこのまま死んでもいいかな、って思って」
「なんだか、お釈迦様の梵天勧請の話を聞いてるみたい。ダメよ、死んだら。世界にはまだまだあなたの知らないことがいっぱいあるし。知識より実体験も必要。どう? あなたを養子にするから、日本に来ない? チコちゃん」
「喜んで」
そう言ってマッチ売りの天才少女五才のチコちゃんは思う。大人はなんと不勉強のまま、のうのうと生きているのか。そんな大人に、日本に行ったらこう言ってやるのだ。
「ボーッと生きてるんじゃねえよ!」
