人は体毛に覆われている。
個人差はあるがはっきりした部分とうぶ毛の部分はほぼ共通している。
うぶ毛は女性を悩ませ、髪と違って削除の対象になっているようだが、人類が衣服をまとうようになって退化したものだろう。
共通して残っている毛にはそれぞれ明確な役割があり、生命維持に欠かせないから生き残っている。
鼻毛は異物の侵入を防ぎ、まつげも目に異物が入るのを防いでいる。耳のうぶ毛も同じだ。
眉毛は頭皮からの汗が直接目に流れ込むのを一旦食い止めている。
頭髪は生命維持に一番大切なものだ。
頭の保護や冬の暖房もそうだが、直射日光を遮断して風を通し、脳を冷却している。つまりラジエターだ。
だから野人は炎天下の海上に一日いても帽子を被らない。
帽子は空気循環が悪く熱中症になってしまう。
鼻ヒゲ、顎ヒゲ、胸毛は考えてもわからない。
たぶんライオンのタテガミのようにオスの象徴だろう。女性にはあまり見られず、生命維持とはさほど関係がないようだ。
腋毛は女性から目の敵にされ連日のように虐待、陰毛もはみ出ると無駄毛扱いされ削除される。
男は気にもしないが、頭髪以外で共通してはっきり残っているのは腋毛と陰毛なのだ。
なぜ二人して仲良く生き残ったのか。
色んな説はあるのだがはっきりとはしていない。
健康上の問題はないから剃ろうが結ぼうが好きにしなさいと言うことになっている。
野人の考えは違う。森羅万象は必ず道理がある。
これだけ明確に生き残り、頭髪はストレートでも二人は仲良く縮れているのだ。誰もおかしいとは思わないのだろうか。
しかも一定の長さで成長が止まり、髪のように伸び続けることもない。確固たる信念で使命を果たそうとしている。
その健気な姿勢に感動するのは野人一人かもしれないが、とにかく「あんたは偉い!」と言うしかないのだ。
そうなれば野人の好奇心と研究の対象になる。
そしてついに理由がわかった。
頭髪と同じように頑固に頑張っている。
頭髪は空気を入れての冷却が目的だが、彼らは空気を溜めて微生物を助けている。
湿度も温度も高い箇所は脇と股間だ。
足は元々裸足で指の間も空間がある。
脇と股間は人の体では皮膚と皮膚が密着する場所だ。
人は終日汗をかいて微量の有機物を出す。
それを表皮の微生物が分解するが大半は「好気性微生物」なのだ。
入って行けなければ分解が遅れて腐敗してしまう。
つまり毛で隙間を作り空気を溜めているのだ。
空気を溜めるには縮れてモジャモジャのほうが都合が良い。
そして髪のように延々と伸びる必要もない。
性ホルモンの分泌が盛んな思春期から生えてくればそれで十分。生き物は匂いで最適のパートナーを見分けるようになっている。
余計な匂いはその本能を鈍らせる。
頭で好きになれば頭で嫌いにもなる。
だから離婚が増えたのかも知れない。
色んな意味で汚れやすい股間、肛門にまで毛が生えるのもそれが理由だ。
これが野人が出した答えだが間違っているかどうかはわからない。科学ではわからないようだから、まあこんなものだろう。
世紀の発見!と言いたいが、言葉も似ているから洒落になってしまう。陰盲の法則のほうが何となく良い。
野人は足も脇も股間もまったく臭くならない。
もしも毛がなければ、腐敗しないようにたまに腕を上げたり、股を開いたりして「空気」を入れれば済む事だが、石鹸で微生物を落として自分でマメに掃除するなら無用の長物となる。
どのように処理しても何の問題もないが、数時間で臭くなるな。
「毛の方程式」・・終わり。