傷だらけの野人の腕時計達 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

左から エクスプローラーⅡ シーマスター サブマリーナ



野人は物に対するこだわりは機能しかない。車も、動けば型も色も気にしないしワックスもかけたことがない。作れるものは作るが、車や時計はそうは行かない。仕事柄必要なものだ。元々の仕事が、船も操船して、常に一人で潜るプロダイバーだったから特に時計は機能にこだわった。水圧で水が入っても狂っても命取りになるからだ。助けてくれる人は誰もいない。ダイビングスポットと言われるような海とは無縁だったのだ。使ったタンクの内400本は、潮流も速く、人が潜った事のない危険なサメの海域だ。限界までタンクを使い、限界の40mまで潜るから常に潜水病が付きまとった。軽い症状にかかり、低気圧が近づくと肘の関節が少し痛かったから荒天予報が体で出来て便利だった。

高校の時はまだ国産の防水時計はなかった。半年以上海に潜っていたから、海で何個駄目にしたかわからない。磯で外すのを忘れてしまうのだ。アワビやサザエを市場にかけて相当稼いでいたから5個は自分で買ったように思う。やっとセイコーからクオーツのダイバーウォッチが発売され、ヤマハの就職祝いに、高卒で既に働いていた幼馴染二人からプレゼントされた。その時計も随分酷使、使い潰してしまった。野人はクオーツは使えない。狂いはないのだが、微電流で肩が凝ってしまうし、いつ止まるかもわからない。安価な自動巻きのダイバーウォッチを何個か買ったが、あまりにも狂いがひど過ぎたし水も入って壊れた。自動巻きで精度が高く、頑丈で何年も使える時計はロレックスしかなかった。サブマリーナは昔弟子入りしようとしたフランスの海洋学者「ジャック・クストー」が海軍特殊部隊の大佐時代に、ドイツの港に海中から侵入してUボートを爆破する為に開発した時計だ。だから名前が潜水艦「サブマリーナ」だ。それまではキャップ式だったが、世界で初めてステンレスをくり抜いた腕時計を作った。それを硬い殻の牡蠣に見立てて「オイスターケース」と名づけた。「バーべチュアル」は自動巻きの意味で、腕を振る事でゼンマイを巻く方式もロレックスが開発した。潜水時間が人目でわかる「回転べゼル」も今ではファッションだが、やはりロレックス社が開発したものだ。見かけはゴツイが機能重視で、部品も何十年も保管している。過酷な条件下で岩などにガンガンぶつけても壊れない優れものだ。サブマリーナの基本デザインは何十年も変わってはいない。構造も素晴らしいが、ロレックス社のパイオニアスピリッツには共感する。温故知新ではないが、古きを温め続け、新しきも求め続ける。たいしたものだ。

この300m防水のサブマリーナは20年以上酷使して傷だらけのボロボロだが、それでも壊れずに動き続け今でも愛用している。スキューバ潜水には必要だが、普段の釣りや素潜りにはゴツくて重いし、釣り糸も引っ掛かって使いにくい。素潜りや釣りなどには120m防水の薄型で十分だ。ロレックスの「エクスプローラーⅡ」、オメガのシーマスター、これだけあれば他は必要なかった。時計は3個しか持っていないし、集めるマニアでもない。好きな人はファッションにするのも自由だが、野人にとって時計は命を守る道具なのだ。野人の所有するもので高価なものはこれくらいで、他の家財道具などはもらいものばかりだ(笑)野人は装飾品を身に着けない。唯一身に着けて、共に歩いて傷だらけになったこの時計達にありがとうと言いたい。野人の身代わりに受けてくれた傷なのだ。