可愛そうな竹輪 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

日本の練り物の歴史上、当初は竹輪はなかった。あったのだが竹輪と言う言葉がなかったのだ。魚のすり身を竹に巻いて焼いたものが「蒲鉾」だった。蒲鉾の語源は「蒲」つまりガマの穂にそっくりというところから来た。もう一つは武器の「鉾」だ。ガマのようなホコのような食べものという意味から生まれた言葉だ。蒲鉾は元々庶民の食べものだったのだが、旨いと言う評判で大名が所望した。しかしながら竹の棒のミンチにかぶりつくのはあまりにも下品で抵抗がある。何しろ正座して腰元に囲まれて「上品」に食していた時代だ。卑しい下々の者と同じ食べ方は出来ないが、どうしても食いたいというので、考案されたのが板の上に綺麗に盛り付けて蒸すと言う今の蒲鉾だ。そして「名前」もかっさらわれてしまった。今までの蒲鉾に「蒲鉾命名禁止令」でも出したのかも知れない。それで仕方なく考えたのが「竹輪」だった。蒲鉾のルーツは竹輪であり、竹輪が蒲鉾で、名前を乗っ取られた犠牲者だったのだ。可愛そうな竹輪・・・安く売られて・・おでんにされて・・竹輪を見るたびに泣けてくる。時々、細い青竹にアジのすり身を「きりたんぽ」のように巻きつけて炭火であぶって食べるのだが、これがまた飛び切り旨くて竹輪の供養にもなる。