牡蠣はタダでいくらでも拾える | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

自給の時代から半自給へ、今は何でもお金で購える時代になった。野菜も季節に関係なく周年出回るようになり、魚は刺し身パックが増えてきた。子供達にとってかまぼこや釜揚げという魚が泳ぐ時代が来るのかも知れない。

海のガイドをしていて、誰もが「え~!?」と驚くものがあった。天然の牡蠣だ。牡蠣は見れば誰でもわかるし、知っているものと思っていた。海水浴の砂浜はともかく岩場で泳げば必ず足を切るのが牡蠣。何処の岩場やゴロタ石の浜にもあり、岸壁や桟橋にもびっしりへばりついている。天然の牡蠣を知らないということが一番驚いた。虫食い一つない野菜と同じように、形の整ったセルガキが牡蠣と思っているのだろう。そこら辺りの岩にくっついている牡蠣を管理養殖すれば同じような形になる。自然は管理されていないから、くっついたところの条件次第でおかしな形にもなる。洗浄器で洗われてないからそれほど綺麗でもない。岩に張り付いた牡蠣は片貝が密着し丸ごと外れることはないが、密集して一部しか岩に付いてないものは簡単に外れる。通常は潮が引くと干上がる潮干帯に付いているから、餌のプランクトンを食べる時間が限られ、海中で養殖している牡蠣ほど成長が速くない。養殖牡蠣の出荷は1年かからない。牡蠣はアサリと同じように養分の多い内湾を好む。川からの豊富な有機物がプランクトンを発生させ、牡蠣を養っている。汽水域まで天然の牡蠣は密生し、河口の護岸やテトラに牡蠣がついてない川をいまだに見たことがない。子供の頃から磯で獲物はなくても牡蠣だけは簡単に拾えた。潮の干満もあまり関係ない。いつでも手の届くところに転がっていた。岩から外さなくても落ちている。集めて大きな缶や鍋に入れてそのまま火にかければ、牡蠣の中から適当な水分が出て丁度よく蒸し焼きになる。石にくっつき離れない牡蠣は石ごと放り込めばいい。そのまま焚き火に放り込むのが一番簡単だったが・・・。持ち帰るのは重たくて大変だが、一日拾えば軽トラ一杯くらいにはなるだろう。しかも・・・全部タダだ! 海産物は漁業権が設定されておるものが多く勝手に採取出来ない。貝では、サザエ、アワビ、トコブシ、アサリ、潮が引く場所ではアサリがある。磯には食べられる磯物が多いが牡蠣ほどボリュームがある貝は他にない。少々水が汚くても気にすることはない。同じ海域でアサリが食べられて牡蠣が食べられない訳がない、同じプランクトンを食べているのだから。内湾ならば牡蠣は何処にでもあり、漁村では冬になると牡蠣打ちが見受けられる。殻は重いから、鳶口のようなもので殻を剥ぎ、中身だけ持ち帰る。半日遊び半分で面白いように集めたら、どれだけ牡蠣飯や佃煮が食べられるだろうか・・。大いに天然牡蠣を拾って食べて海のミネラルをふんだんに摂ってもらいたい。そう言えば、昔から凶作で草の根をかじるほどの飢饉のイメージは内陸部。漁村で餓死するシーンは見たことがない。