どぶろく本 | Rockdom~酒に飲まれて

どぶろく本

 懲役くってもどぶろく飲みてぇ――そんな、魂の叫びが聞こえてきそうな本に出会いました(大げさ)。
 秋田の地方出版社・無明舎出版編の
どぶろく王国―ノンフィクション講座 です。

 「どぶろく王国」というのは、秋田のことです。

 秋田県は現在も酒の消費量・日本一ですが、実は明治、大正、昭和初期を通して、どぶろく密造摘発・日本一でもあったようです。

 アル中文化が脈々と受け継がれていた秋田県。コメどころの貧しい農民が、くず米を手に、腹の足しになるどぶろくを自分で作っては飲んだくれるのが先祖代々当たり前。それなのに明治32年、日清戦争の戦費調達のため、自家醸造が一切禁止になり、酒税がかけられた市販酒しか認められなくなりました。こうなればヤミで密造するしかない。

 ここから始まる税務署員と農民との攻防が、クソ真面目なだけに可笑しい。税務署員が密造酒狩りに村にやってくると、村の入り口付近にある小学校の児童が、密造酒を隠すよう伝令に走ったり、電気会社の営業所が送電線のスイッチを点滅させて村民に知らせたり。隠し場所も様々で、物置小屋の板壁を二重にして秘密の小部屋を作ったり、小学校や神社に隠したり、さらにはビンや樽に栓をして沼の中にまで隠したり。挙句の果てには、税務署員の自転車をパンクさせたり、雪道に落とし穴を掘ったりもしたんだそうです。対する税務署側も、麹屋に行っては販売先を割り出し、怪しい家を徹底的にガサ入れ。激しい火花を散らしたようです。

 しかし、不幸なことに密造酒が税務署に見つかってしまうと、30円以上120円未満の罰金(1斗未満)。大工の日当が66銭の頃の話で、払えない場合は懲役で刑務所行きになります。罰金工面のため、娘を売ったり夜逃げしたケースもあったとか。それでも、どぶろくを求めてやまない恐るべし秋田県民。

 大正5年には、全国の密造摘発件数が7321件のところ、秋田県が堂々1位の3161件。2位の岩手県1083件を大きく引き離しています。

 ちなみに、自家醸造は現在でもご法度ではありますが、本の最後に「どぶろくの仕込み方」という章がついているのが、何ともにくいです。