お久しぶりです、陸奥千代です。


本日は、平山夢明『DINER』のメディアによるキャラ設定の違いを

様々な項目から分析していきたいと思います。

エンターテイメント感は出しつつも平山節全開の小説版、
長期連載を前提とし、様々なエピソードやキャラを追加している漫画版、
圧倒的な映像美で2時間弱も観客の目を奪い続けた映画版。
みんな違ってみんないい。

なお、小説は『DINER』(無印)のみ、

漫画は単行本10巻までを参照しております。

1.カナコ

 一般人ながら、ふとしたことで裏の世界に足を踏み入れてしまうカナコ。
 彼女はメディアごとに大幅に設定が変更されており、それぞれ異なる魅力を持っています。
 映画版では玉城ティナさんが演じていましたね。

 (1)年齢
 小説版では30歳、漫画版では25歳とそれぞれ明言されています。
 映画版ではハッキリした年齢はわかりませんが、
 車を運転していること、公式HPで「孤独な少女」と記載があることから、
 18歳~20代前半ではないかと推測されます。

 (2)過去の辛い経験
 小説版では、結婚し子どもを授かるものの、授乳中にうたた寝しそのまま子どもを窒息死させてしまったという過去があります。
 わざとでないにせよ「子どもを殺してしまった」という罪悪感がカナコの人生に大きく影を落とすこととなるのです。
 

 漫画版では、25歳という年齢もあり結婚歴なしという設定。
 その代わり、小学生の頃いじめっ子をかばった際に突き飛ばされ、工事現場の鉄筋が腹部を貫通。
 かばったはずのいじめられっ子までもがビビって逃げ出したため、救助されるまで6時間激痛に耐え続けた
という過去が。
 「おせっかいで痛い目に遭う」とわかっていながらも、それでも困っている人をほっとけないカナコの性格が、
 殺伐とした裏の世界で読者に少年漫画チックな希望を与えてくれます。

 映画版では、幼い頃に母親が自分を捨てて家を出ていき、祖母に育てられたという過去があり、
 それゆえに「将来はレストランを開いてお母さんに来てもらう」という夢を抱き、料理上手であるという設定に深みを持たせています。

2.ボンベロ


 殺し屋専用ダイナーの店長であるボンベロ。
 メインのキャラでありながら、あまり情報が明らかにされていないんですよね…

 

(1)知られざる過去

 小説および映画では、デルモニコに拾われ殺し屋として活躍し、その後殺し屋専用ダイナーの店長となった

 という程度しか明らかになっていませんが、漫画版ではより掘り下げ、

 母親が家に連れ込む男に暴力を振るわれながら暗い少年時代を過ごしていたが、

 自分を襲おうとした男を(やや過剰防衛レベルで)返り討ちにしたことがきっかけでコフィ達と出会い、

 殺し屋としての人生を歩むことになるという背景が描かれています。

 

 小説や映画では「もしかして日本人ですらないのでは?」というほど素性が不明でしたが、

 漫画版では、もともとはどこにでもいる普通の男の子だったという設定になっているようです。

 

(2)喋り方

 小説および漫画では、常に冷静沈着で滅多に声を荒げることはありません。

 映画でも冷静なのは変わりないんですが、とにかく叫びます

 

 

 ン俺は~~~~!!

 ここの~~~~!!

 王だっっ!!!!

 「主演:藤原竜也」の時点で或る程度予想はしていましたが、

 小説と漫画で物静かな分、取り戻そうとするかのように叫びます。

 限られた時間の中でボンベロの「凄み」を表現するには、

 叫ぶという手段が効果的だったのかもしれませんね。

 

3.スキン

 突如として裏世界へ放り込まれたカナコに優しく接する傷だらけの殺し屋、スキン。

 映画版では窪田正孝さんが演じていましたね。

 

 いずれのメディアでも印象的なメニューとして「スキンのスフレ」が登場しますが、

 ボンベロは意図的にそのスフレに異物を混入させます。

 それは、スキンが抱えるあるトラウマを思い出させない為なのですが…

 

(1)トラウマ

 小説および映画では、母親からの過度な期待や過干渉によりトラウマを抱えるほど苦しんでいたと思われる描写があります。

 母親が作っていた思い出のスフレを食べることが人生の喜びになるほど母親を慕っている反面、

 思い出せば発狂するほどのトラウマを抱えながら生きるスキンはどこか儚げな印象を与えます。

 

 しかし漫画では、全く異なるトラウマが描かれています。

 未婚のままスキンを生んだ母親は、生活のために妻子ある男性と肉体関係を持っていましたが、

 ある時その男の正妻に逆恨みされ、硫酸を浴びせられて顔が醜く焼けただれてしまいました。

 幼いながらも大きなショックを受けたスキンは、「母親と同じになるため」と自らの体をカッターで切り刻むようになります。

 

 やがて生活が立ち行かなくなった母子は、スキンの血縁上の父親へ金の無心をしに行きますが、

 権力者ながら人格が破たんしている父親によって撃たれた母親は瀕死の重傷を負います。

 苦しむ母親を楽にするため自ら手を下したスキンでしたが、「大好きな母親を手にかけた」という罪悪感は長年にわたり彼を苦しめます。

 

(2)作中での生死

 いずれのメディアでも、カナコが異物を取り除いたスフレを食べたことでトラウマが蘇り発狂するという展開は同じです。

 小説および映画では、暴走し手がつけられなくなったため、やむなくボンベロによって殺害されてしまいます。

 

 漫画でもボンベロによってとどめを刺されそうになりますが、カナコに母親の姿を重ねたことでトラウマを克服し、

 生き残ってその後もボンベロやカナコを助ける重要な役割を担います。

 

 小説や映画で惜しまれつつ亡くなったスキンですが、彼が活躍する世界を見たいという方は

 漫画を読んでみることをお勧めします。

 

ひとまず本日はここまでとさせていただきます。

続きはまた後日…