2022/6/17

10増10減

衆議院の選挙区割変更について、今日の朝刊は一斉に大きく取り上げている。
一票あたりの有権者数を単純比較した結果が不平等であり憲法違反だという判断に基づき、たびたび選挙区割が変更されてきているが、これは民主主義の実現のために必要な措置なのだということである。

今回の10増10減の区割り変更により、「一票の格差」は最大2.096倍(2倍強)から1.999倍(2倍弱)に縮小するそうだ。

数十年にわたり、「一票の格差」の問題は日本の選挙制度改革の中心であった。
だが、「一票の格差」是正のために、地方が荒廃したり、地方の民意が国政に反映されないという別の大きな問題があるのではないだろうか?
 

地道な活動と選挙区

今年の初めに、私が所属する日本維新の会の馬場伸幸共同代表が講師となっての党内の勉強会に参加する機会があった。

講義のあとの質疑応答の際、「地方選挙と国政選挙の違いについて」聞かれた馬場共同代表は「市議会議員選挙も国政選挙も、同じように活動すればいい」と答えた。
馬場共同代表は大阪府堺市の市議会議員を務め、その後、衆議院議員に選出された。地方政治も国政も両方ご存知なのだ。

この時、私は素直に、「どんな選挙でも、地道な日ごろの活動が重要なんだなぁ」と受け止めた。
地道な日ごろの活動が重要だというのは間違いのないことなのだ。

 

本当に同じなのか…?

しかし、ふと気づいた。大阪のような大都会と地方とでは、「市議会議員選挙も国政選挙も同じ」とは言えないのではないかという疑問が、あとからわき上がってきてしまったのだ。

馬場共同代表の衆議院選挙の選挙区は大阪17区である。
大阪17区というのは、堺市の半分だけ(中区・南区・西区)を選挙区としている。

人口が多いから、「一票の格差」是正のために、一つの地方自治体を半分にする必要があるのだ。

「えぇ? 市の半分だけで衆議院の選挙区!!!?」
これは私にとって衝撃であった。都会と地方を比べて、日ごろの政治活動に大きな差があることは認識してはいたけれど、「市の半分だけでいい」というのは、予想をはるかに上回る違いだったのだ。

そこで、大都市圏の選挙区として大阪17区、そして、地方の選挙区として私が活動している茨城4区を用いて比較してみたい。

大阪17区と茨城4区の比較【面積】

選挙区の単純な有権者数をもとに現在は区割りをされている。これと同じように単純に、別の角度から選挙区をみてみることにする。ごくごく単純に選挙区の面積を比較してみたのである。

大阪17区 86.89㎢ 
  中区(17.88㎢)
  南区(40.39㎢)
  西区(28.62㎢)

茨城4区 1199.59㎢
  ひたちなか市(99.96㎢)
  那珂市(97.82㎢)
  常陸大宮市(304.06㎢) 
     ※選挙区外である旧御前山44.39㎢を市全体348.45㎢からひいたもの
  常陸太田市(371.99㎢)
  久慈郡大子町(325.76㎢)

単純な面積比較で言うならば、13倍以上もの大差があるのだ。

この面積の差は、実は非常に大きい。
有権者と政治家が接する機会に大きな差が出てしまうのだ。

ちょっと散歩しただけでも多くの有権者とすれ違う都市部においては、駅立ちも辻立ちもポスティングも容易だ。選挙区を一回りするにしても範囲が狭いので、有権者からすれば何度も政治家の活動を見聞きすることにつながる。

他方、地方においては、一つの地方自治体を回るだけでも車が必須で一日がかりである。丁寧にまわるなら山間部などでは数日かかってしまう。有権者が散在しているため、ポスティングも戸別訪問も非常に時間がかかる。有権者からすれば、政治家は滅多に見かけない遠い存在になってしまい、民意を政治に反映させることも困難になってしまう恐れが高い。

日本は大都会だけでできているわけではない。地方の山や田畑や住んでいる人々すべてがあってこその日本なのだ。
この国家の本来のあり方を、今の政治は忘れてしまっているのではないだろうか?

民主主義では多数派の意見が通っていく。しかし、民主主義は完ぺきではない。多数派だから常に正しいというわけではないし、多数意見だからと言って少数意見を無視したり軽視していいわけではない。偏った民主主義は独裁政治につながってしまうのだ。少数者、つまりここでは、大都会以外の地方に住んでいる人たちの政治参加を制限してしまう現在の「一票の格差」是正は、果たして国民のためになるものなのであろうか?
私には、行き過ぎた是正であるように思えてならない。

海外における「一票の格差」

アメリカでは、上院議員の場合、各州から2名ずつ選出されることが決まっており、一票の格差は州の人口の多寡による。2021年の国勢調査によれば、人口最多はカリフォルニア州 3924万人、最少はワイオミング州 58万人であり、一票の格差は67倍にものぼる。日本の衆議院の一票の格差が2倍前後であることを考えると、驚きを禁じ得ない。(逆に、アメリカから見た場合、日本の一票の格差是正のほうが驚きかもしれない)

イギリスでは、下院議員の場合、区割り委員会が定期的に区割り調整を行っている。

この区割り調整では、人口だけでなく、面積も調整の対象になるのである。

 ①選挙区の登録有権者数が国全体の登録有権者数の5%以内
 ②選挙区の面積が13,000㎢以内

イギリス下院議会の選挙区は、この2つの要件を両方とも満たすことが必須なのだ。
選挙区は有権者数のみでなく、対象となる地域の広さにも大きな意味があるということは、イギリスの選挙区割制度を見るとよくわかる。

人口も面積も重要な要素

日本においても、イギリスの選挙区割を参考にして、①選挙区の有権者数が国全体の有権者数の何%以内、かつ、②選挙区の面積が何㎢以内でなければならない という選挙区の決め方を採用すべきなのではないか?

全国の国民の民意を国政に反映するために、今こそ「一票の格差」是正のみに固執しない、より健全な選挙区割を検討していかなければならない。