毎年、尾崎豊の命日が近づくと彼についての記事をアップしている。

 

尾崎豊関係の記事 まとめ(改) | 武術とレトロゲーム (ameblo.jp)

 

 尾崎豊の生前をリアルタイムで知らない方々も増える中で、今回は彼の代表曲である『I LOVE YOU』について、述べてみたい。

 

 振り返ると1980年代に尾崎豊の代表曲とされたのは、『卒業』と『15の夜』であり、それぞれの歌詞「夜の校舎 窓ガラス壊してまわった」「盗んだバイクで走り出す」がよく話題になったものである。それは、『3年B組金八先生』の『腐ったミカンの方程式』や『スクールウォーズ』、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』やジェームズ・ディーンの『理由なき反抗』などと同じライン上に彼がいたことを示している。

 実際、彼の初期の曲には「大人」対「子供」、「教師」対「生徒」、「管理社会」対「自由」、「金」対「夢」等の二項対立が軸となる作品が多い。

 

 ところが1990年代に入ると、彼の代表作は『I LOVE YOU』となる。もともとは、1983年12月1日に発売されたファーストアルバム『十七歳の地図(SEVENTEEN'S MAP)』に収録された曲であった。それが1991年3月21日にシングル曲としてリカットされたときに再注目されたのである。懐かしの8センチCDであり、この時点で尾崎豊はまだ生きていた。同年にJR東海の「ファイト! エクスプレス」のコマーシャルソングとして使用された影響も大きかったと思われる。

 

東海旅客鉄道 東海道新幹線 ファイト!エクスプレス'91父の手紙 60秒 | 東京コピーライターズクラブ(TCC)

 

 現在では、「尾崎豊と言えば『I LOVE YOU』」の印象が強くなってしまった。そして、ラジオ等で1990年代の代表曲として『I LOVE YOU』が流されることもあるのだが、1980年代から尾崎豊を聞いてきた自分からすると、妙な違和感を感じてしまう訳だ。

 

 同じような例として、中島みゆきの『ファイト!』が挙げられる。『ファイト!』は1983年3月5日に発売されたアルバム『予感』の中に収録された曲であり、奇しくも尾崎豊の『I LOVE YOU』と同時代の曲なのである。1980年代の自分では気付かなかったが、『ファイト!』は吉田拓郎の往年のメロディーラインを多分に意識した曲であり、1990年代を彷彿させる旋律ではない。

 にもかかわらずである。中島みゆきの代表曲『空と君のあいだに』のCDシングル(8センチCD)のB面に収録されたことで、1980年代に中島みゆきを聞いていなかった人々の間でも人気が出始めた。『空と君のあいだに/ファイト!』は1994年5月14日に発売された。1994年に、住友生命の『ウィニングライフ』のコマーシャルソングに使用された影響もあったと思われる。最近のネット上の記事で、『ファイト!』が1990年代に発表された曲のように述べられたものがあったが、ライターの取材不足である。

 

 

※1980年代の尾崎豊→『卒業』『15の夜』、1990年代以降の尾崎豊→『I LOVE YOU』と評価される中で、彼の没後にファンの間で「もっといい名曲」としてしばしば挙げられたのが『シェリー』と『Forget-me-not』である。本人は「ロックンローラー」を標榜していたが、むしろアップテンポではないバラード調の『I LOVE YOU』『シェリー』『Forget-me-not』等が評価されている点は面白い現象である。