日本では「刀」も「剣」も「日本刀」を指すようになってしまい、「日本刀」で「剣術を指南」したり、語法に混同が生じている。

 中国で「剣(けん)」と言えば、刃が真っすぐで、両方に刃が付いている。「両刃(りょうば)」は「諸刃(もろは)」と呼ばれることもある。片手持ちを前提として作られている。以下のようなものが、中国の剣の一例である。

 

 それに対して中国の「刀(とう)」は、刃が湾曲しており、片方に刃が付いている。「片刃(かたば・かたは)」である。「偏刃」と書かれることもある。こちらも、片手持ちを前提にしているものが多い。この分類で考えると「反り」があり「片刃」の「日本刀」は「剣(けん)」ではなく、「刀(とう)」と言うことになる。以下のようなものが、中国の刀の一例である。

 

 

 昨年、ラーメンに関して以下の3冊を読んだ。

『ラーメンの誕生(岡田 哲/筑摩書房/ちくま学芸文庫)』

『教養としてのラーメン(青木 健/光文社)』

『ラーメンの歴史学(バラク・クシュナー/幾島 幸子・訳/明石書店)』

 

 以上の内、『ラーメンの歴史学』はラーメンが誕生するまでの日本の食文化についてかなりのページを割いており、そのせいもあって、今年に入ってから日本の食文化に関わる以下の三冊を読んでみた。

『食の変遷から日本の歴史を読む方法(武光 誠/河出書房新社/KAWADE夢新書)』

『日本人は何を食べてきたのか(永山 久夫・監修/青春出版社/プレイブックス・インテリジェンス)』

『食と日本人の知恵/小泉 武夫/岩波書店/岩波現代文庫』

 

 すると、『日本人は何を食べてきたのか』などに「和包丁は片刃である」「ヨーロッパ、アラブ、インドはもちろん、中国、韓国も両刃」とある。

 あれれ?「両刃」の包丁って???

 

 実は、武術・戦闘の世界と料理の世界では、「両刃・片刃」の言葉の使い方が全く異なるのである。すでに述べてきたように、武術・戦闘の世界では左右両側に刃があるか否かである。

 

 それに対して包丁等は、刃を両側から研いでV字型にするか、片側のみ研いでレの字型にするかの違いを「両刃・片刃」と表現している。

 

 素人が普通に考えれば、両刃の包丁の方が真っすぐに切れて、使いやすい。片刃は、真っすぐに切り下せないのである。

 この辺り、日本の弓道で使う和弓のみが上下非対称であり、弓としては世界的に珍しいこととの類似性を感じてしまった。

 「両刃の剣(もろはのつるぎ、りょうばのつるぎ)」「諸刃の刃(もろはのやいば)」の譬えは、後者ではなく前者の「両刃(諸刃)」のこと。

 日本刀の断面はV字型なので、後者の語法(料理の世界の語法)を使うと「両刃(諸刃)」になってしまう。

 ちなみに、江戸時代には太平の世となり人を殺傷する日本刀の需要が減っていったので、日本刀の製造技術は、和包丁へと流れることとなった。

 いろいろと、勉強になった。

 


※自分の祖父は、自分の母の使う包丁を砥石で研いでくれていた。もう自分くらいの世代になると、「刃を研ぐ」と言うテクニックを常時体験している人は少なくなってしまった。

 

※今回は、「武術・戦闘の世界」と「料理の世界」についてのみ述べたが、「両刃カミソリ」なども、前者の語法となる。「クラフト・工業の世界」や「アウトドアの世界」では、「片刃と両刃」の言葉がどのように使われているかについて調べていないが、調べると面白いかもしれない。