読書って面白いなぁ、と思う瞬間がある。
 
 今回は、清水義範の『考えすぎた人 お笑い哲学者列伝』を読んでいたときに起こった。ストーリーじたいはフィクションなのだが、この本のデカルトの章(『デカルトのあきれた方法』)、73ページとその注釈(6)のある87ページによると、デカルトは剣術の修行をして、『剣術』と言う論文まで残しているではないか!この部分は史実である。だが残念なことに、この論文は散逸して、残っていないらしい。その内容は二部からなっていて、いろいろな条件のもとで、どう闘うのがいいか書かれていたらしい。デカルトだけに、明晰判明に法則的に書かれていたのではと、想像の翼を広げてみると、現在読めないことが口惜しく思う。西洋版『五輪書』と呼べるべきものだったかもしれず、ちょっとした「武術ロマン」と言える。
 夢枕獏か山田風太郎あたりが、「失われたデカルトの『剣術秘伝書』を求めて、現代に蘇った宮本武蔵、柳生十兵衛、ジョージ・シルバーらが争奪戦を繰り広げる!!」とか書いてそう…
 
 
 もうひとつ、デカルトと言えば、機械的自然観と物心二元論の祖、近代的理性の創始者のように扱われ、現代の環境破壊や核兵器開発等、行き過ぎた現代科学技術の元凶のように語られる場合もある。それだけに、合理的な考えの持ち主と捉えられている。
 そして、パスカルが「信仰の人」とするならば、デカルトは「理性の人」とされる場合が多い。パスカルが、自身で「火の夜」と呼ぶ神秘体験をしたことは有名である。ところが、あの合理論の祖として称えられるデカルトも、1619年11月、炉部屋にこもって思索にふけり、3つの神秘的な夢体験を得ていると伝記にはあるのだ。「伝記にはある」と言うことは、夢の内容については本人の記述ではないと言うことであり、後生の創作である可能性も高い。だが、もしもこれが事実ならば、パスカルもデカルトも火に関わる神秘体験が(デカルトの方は、「火花」ではなく「閃光」と訳している場合の方が多いようだが)、人生の転機となっていると言うことになり、言わば「哲学ロマン」である。ただ、内容はともかく神秘的な夢をデカルトが見た事実は、Wikipediaにも記述がある通り、信用してもいいようだ。自分が、この「デカルトの3つの神秘的な夢」について初めて知ったのは、『哲学からのメッセージ(木原武一・著/新潮社・ 新潮選書)』と言う本からであった。前述の『考えすぎた人 お笑い哲学者列伝』でも、74ページで触れられている。
 
 
 
 
※ちなみに、ルネ・デカルトが1619年11月に3つの神秘的な夢を見た地であるウルムは、現代物理学の父・アルベルト・アインシュタインの出生の地であり、ウルムは人類の数学と自然科学の発展に欠かせない地と言えよう。
 
※2024年5月4日追記
『1日10分の哲学(大嶋仁・著/新潮社・新潮新書)』を読むまで意識していなかったのだが、ルネ・デカルトと宮本武蔵は、ほぼ同年代の人である。デカルトは1596年生まれ、宮本武蔵の出生は確固たる資料がないが、1580年代に生まれたとされる。