平成28年(2016年)の大晦日、THE YELLOW MONKY(ザ・イエロー・モンキー)は、NHKの紅白歌合戦に出場した。そのときの歌が『JAM』である。

この『JAM』が、8センチシングルCDとして発表されたのは、平成8年(1996年)2月29日となっている。尾崎豊は平成4年(1992年)4月25日に逝去しており、この世にはもういなかった。そして、平成4年と平成8年の間の大きな溝は、阪神淡路大震災とオウム真理教の地下鉄サリン事件である。
『JAM』を最初に聞いたとき感じたのは、この曲は一部、尾崎豊の影響を受けているのではないかと言うこと。作詞、作曲ともボーカルの吉井和哉となっている。

具体的には、イエモンの『JAM』の「僕は何を思えばいいだろう 僕は何て言えばいいんだろう こんな夜は 逢いたくて 逢いたくて 逢いたくて」の部分が、尾崎の『卒業』の「卒業していったい何解るというのか 思い出のほかに何が残るというのか 人は誰も縛られたかよわき小羊ならば、先生あなたはかよわき大人の代弁者なのか 俺達の怒りどこへ向かうべきなのか これからは何が俺を縛りつけるだろう…」等の部分とメロディーラインも歌詞の方向性も似ていると思った。
言わば、「メロディーラインを崩した演劇的独白」と「疑問形」の類似性である。

尾崎豊は、「メロディーラインを崩した演劇的独白」を曲の中で効果的に使用した。そして、彼が使用する場合は、たいてい「字余り」的であった。

代表的なもので思いつくのは、まず『15の夜』の「とにかくもう 学校や家には帰りたくない」。
次に、『永遠の胸』の「断崖の絶壁に立つように夜空を見上げる 今にも吸いこまれてゆきそうな空に叫んでみるんだ 何処へ行くのか 大地に立ち尽くす僕は 何故生まれてきたの」。
そして、『ドーナツ・ショップ』の「もうどれくらい目を閉じていたんだろう 何もかもが僕の観念によって歪められていく そしてそれだけが僕の真実だ いつ始まりいつ終わるというののだろう」。
さらに、『FREEZE MOON』の「いったい何ができる? 今夜こうして夢見たみたいに俺は生きてゆきたい だからもっと速く もっともっと輝くまで 俺達は走り続けてゆかなければ」。
それから、『誕生~BIRTH~』の「新しく生まれてくるものよ おまえは間違ってはいない 誰も一人にはなりたくないんだ それが人生だ わかるか」。
さらには、『核(CORE)』の「俺の目を見てくれ いったい何が出来る?」

紹介したうち、『卒業』『永遠の胸』『FREEZE MOON』『ドーナツ・ショップ』『核(CORE)』の5つが「疑問形」となっている。
また、『JAM』と尾崎豊の作品群は、社会的なテーマを歌にしながらも、特定の異性との関係を後半部に歌いあげる点でも類似しているように思う。ただWikipediaを参考にすると、『JAM』の「逢いたくて」は、「彼女」ではなく「自分の娘」を表現しているとのこと。ならば、尾崎の『BIRTH~誕生~』の「BABY」に近い感情かもしれない。


そしてもう一曲、尾崎豊的なものを感じた曲は、ゆずの『嗚呼、青春の日々』である。
この曲も平成12年(2000年)5月31日と、尾崎豊逝去後の曲となる。
「初恋のあの人がもうすぐ母親になるんだって 小さな町の噂話で耳にしたよ 一緒になって馬鹿やったアイツが父親の後を継いで一人前の社長さんになるんだってさ」の辺りが、尾崎豊の『Scrap Alley』を彷彿させる。ただWikipediaを参考にすると、亡くなった友人への歌と言うことで、やや路線が違うかもしれない。
また、「嗚呼嗚呼」の部分が、尾崎の『卒業』の「何でもおおげさにしゃべり続けた」の後に続く「あ~あ、あ~あ~」を彷彿させる。

では、尾崎豊の生前に尾崎豊的「メロディーラインを崩した演劇的独白」を使用した曲はなかったのかと聞かれると、TM NETWORKの『ELECTRIC PROPHET(電気じかけの予言者)』を挙げたい。この曲の「今夜のような夢を見せてあげるよ」の部分が、『FREEZE MOON』の「今夜こうして夢見たみたいに俺は生きてゆきたい」を彷彿させるのだ。また、最初メロディーラインを崩しておきながら後にメロディーが復帰する雰囲気は、『15の夜』の「とにかくもう 学校や家には帰りたくない」とも似ている。この『ELECTRIC PROPHET』は1985年11月28日発表であり、『FREEZE MOON』も1985年11月28日発表となっている。同日発表は単なる偶然なのだろうか。ただし『FREEZE MOON』については、『バーガーショップ』と言う名称で、尾崎のライブの中ではアルバム『壊れた扉から』発売よりもずいぶん前から歌われていた曲であることを指摘しておく。ちなみに尾崎豊のアルバム『壊れた扉から』のレーベルはCBSソニー、『ELECTRIC PROPHET』が収録されたTM NETWORKのアルバム『TWINKLE NIGHT』のレーベルはEPICソニーだった。 

さらに、尾崎豊的「疑問形」として挙げておきたい曲がある。
都市伝説的な噂として、氷室京介の『WILL』と吉川晃司の『星の破片』は、亡くなった尾崎豊へ捧げる歌だとの話がある。
今、『WILL』の歌詞を振り返ると、尾崎が多用した「Oh」で始まり、「風はどこへ消えたのか 雨はまだ止まないのか 俺はなぜ眠れないのか 夢はいま醒めているのか」と疑問形で進んで行く。「やせた魂の痛みと軋みの中で いったいどこまで転がればいいのか」なども、「〇〇の中で」と言う表現も含めて尾崎豊的節回しを感じる。
そして、氷室京介がBOΦWYが解散してソロ活動を始めたばかりの頃の『CALLING』も、尾崎豊的「疑問形」が使用され、メロディーラインも何となく『卒業』を氷室的にアレンジしたような気がしてくる。歌詞は以下のようにあり、やはり「疑問形」である。
「眠れぬ夜をいくつ数えたら俺たちたどり着くだろう どれだけ命なくしたとき争いは終わるのだろう」
ちなみに、『CALLING』は氷室京介自身の作詞、『WILL』は松井五郎作詞となっている。

『JAM』にしても、『嗚呼、青春の日々』にしても、『CALLING』にしてもそうなのだが、尾崎豊自身は自分をロックンローラーだと自負していたが、日本のミュージックシーンの中ではバラード的な分野で与えた影響が大きいかもしれない。あえて言うならば、「ロック的なバラード」か。

反対に、もしも尾崎豊が、『JAM』や『嗚呼、青春の日々』を歌ったら、どんな感じになったのだろうと空想してしまう。


※あくまで、私のアナロジー的推測ですので、イエモンのファン、ゆずのファン、TM NETWORKのファン、氷室京介のファンの方々、気を悪くしないでください。それから、KATSUMIの『明日へ架ける夢(1993年1月26日)』の歌詞も、尾崎豊テイストを感じます。