ヘンリー・デイヴィッド・ソローの『森の生活(ウォールデン)』からの受け売りではあるが、もともと人類は比較的暖かい地域から誕生した。人間は、恒温動物なので、常に体温を保つために「熱」を必要とする。本来は「衣」も「食」も「住」も、人の「熱」を保つためのものである。暖かい地域では、凍死を防ぐために食べまくる必要もないし、厚着する必要もない。他の哺乳動物のように、長い体毛も必要ない。住居にしても、直射日光を避けたり、通気をよくしたりすることを重視して、吹雪に耐える頑丈なつくりや、室内を厳重に保温することを、考える必要がない。(参考までに、アフリカでは日中非常に気温の高くなる地域が多いが、夜になると毛布が必要なほど冷え込むところも多い。東京の夏のように、人工的な要因で、熱帯夜が数十日続く生活とは全く違う。)
 
 
 つまり、「食」はともかく、年中温暖な地域では、最低限しか「衣」も「住」も必要としない。
 
 その後、人類はより寒い地域へと生息地を拡大していく。すると、服は保温性の高いものを重ねて着るようになるし、住居も頑丈で、室内で火を燃やせるものへと変化していく。食べ物にしても、総カロリー量は増えるだろうし、厳冬期に食料を保存する知恵を使うようになる。
 
 繰り返すが、人間にとっての「衣・食・住」の最も根源的な要素は、「熱」に集約できる。「住」で猛獣から身を守るとか、「衣」で異性の気を引くとかは、むしろ付随的要素ではないだろうか。
 
※ソローは、「熱」を保つ「衣」「食」「住」の3つに、「火(すなわち燃料)」を足して、「人間存在の根本的法則(Essencial laws of man's existence )」としている。