『むすび』(348号):「努力」と聞いて | 周防大島・塾と田舎暮らし

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木村学習塾通信『むすび』  山口周防大島の小さな学習塾の通信です
<教える-教わる>の関係から、一人ひとりが結び合った関係に。子どもも大人も。そんな願いを込めて『むすび』。

木村学習塾通信『むすび』

2014.1.24348号)

「努力」と聞いて



朝日新聞に「朝日求人 仕事力」という連載コラムがあり、各界の一流の方が文章を寄せています。「今日も踏ん張る判断をしたか」という表題で料理人・神田裕行さんという方が書かれた文章がありました。少し長くなりますが許可も得ずおしまいの数段落を紹介します。

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私は、自分にとって理想の日本料理を突き詰めるプロセスで悩みましたが、あなたにも、思い描く仕事の理想をはっきりさせていくようにとお伝えしたい。簡単ではないかも知れませんが、「何か違う」という違和感を切り捨てないで、それでも基本となる大切な知識や技術は磨き続けてください。


どんな仕事でも変わりません。気づいたこと、やらなければいけないと思ったことはすぐにやることを習慣にしていって欲しい。例えば料理なら、一つ仕上げるまでにいろいろな分岐点があります。こちらのエビと向こうのエビ、高い方が物はいいが、少し安いほうでもいいかと迷う。下ごしらえに技術がいる食材だが、面倒でも丁寧にやるか、しかられない程度に処理するか。


分岐点では「こちらをやった方がいいと自分で分かっていること」がいつも右にあって、反対側の左には「仕事の質は落ちるけれどラク」という道が必ず見えています。違いはほんの少しで、どちらを選んでも問題は起きない。でも、ちょっときついけれど、いいと分かっている「右」へ常に振っていく気持ちの強さが、結果的にはあなたの仕事を大きく違う場所に導くのですね。


仕事の現場での小さなこだわりは、自分で納得した大きな信念の支えがないと積み上げられない。でも、常に右に振る努力はそう簡単なものではありません。ただ、今日も明日も右に振ろうよって思い続ける自分で在りたいと思っています。

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いかがですか。


私はこれを読んで、努力というものを思い違いしていたとまず感じました。私がこれまで思い描いていた努力とは何か大きなことを成し遂げるための特別な鍛錬だし、努力するには特別大きな力が必要だと思っていました。だから努力は簡単ではないし、今の自分にはそれだけの力が備わっていないから努力できなくても仕方ない。努力できる力がつくまで何も出来ないのだと、努力することを遠ざける理由を自分の中にこしらえていました。


でも、努力は日常の一つひとつの行いを積み重ねていくときにどんな選択をするかなのですね。繰り返される場面で楽な方、甘くささやきかけてくる方を選択しない。理想に向かっている方を選択するためにどれだけ踏ん張るかが努力なのだと教えられました。特別な大仕事などではなく、小さな積み重ね、そこが努力するポイントなのです。


その視点でわが身を振り返ってみると「さあ、どっち?」の場面で踏ん張っていないなあと。何をするにしても選択です。踏ん張ることのできる場面だらけです。これから自分を鍛えなおす最高のトレーニングのポイントを教えてもらった気分です。


もう一つなるほどと思ったのは「違いはほんの少しで、どちらを選んでも問題は起きない」というところです。せっかく努力するのだから、その効果も早く手に入れたい。努力したぶん絶対良くなっているはずだと思いがちです。だけど、選択の場面で苦労して踏ん張る努力をしても違いはほんの少ししかなく大きな問題も起きないとなると、なおさらまあいいかと甘い選択肢を取ってしまいそうです。目に見える成果は簡単には手に入らないということも心にきちんと納めておかないといけません。


子どもたちの中にも例えばテスト勉強をいつも以上に頑張って「自分をほめてあげたい」というくらい努力してテストに臨んだとしましょう。でも思ったほどの点数にならなかった。あんなに勉強したのに…と思うよね。私の努力を返して…と。でも、これは努力が足りなかったのでも努力の質が悪かったのでもありません。目の前の結果にはつながらなかったけれど、努力したことは自分のまぎれもない経験です。つぎの目標に向かってまたちょっと苦しいけれどやったほうがいいだろうなと理想に向かう方を選択することを繰り返す。ひたすら目の前の選択を踏ん張りながら選択していく。その経験は全て自分のものです。高みに登る一歩一歩です。


努力って大それたことではなくて毎日の暮らしの場面でどれだけ踏ん張るかなのですね。また、やるべきことを先送り後回しにせず「すぐやる」を心がけるとスムーズに動き始めます。一緒に頑張っていきましょう。