電車の経路検索のサイトがあります。
出発駅と到着駅を入力すると、乗るべき電車とか、乗り継ぎとか、待ち時間とかを知ることができるので非常に便利なツールです(ありえないルートも出てきますが)。どこに行くにも不安がなくなりましたし、着く先の人に、到着見込時間をかなり正確に伝えることができるようになりました。
時刻表を行ったり戻ったりして調べなければならなかった時代には到底戻ることができないように思います。動きの速い時代ですから、大人はこういうことに時間をかけてはいられないのですが、時刻表を繰って調べるという経験は、子どもたちには重要だったかもしれません。だから、子どもたちには、インターネットでたいがいのことは調べられる、という事実はしばらく教えないつもりです。

それはさておき、今日は、弁護士が法律相談を受けるとき、どういうプロセスで結論を導くのか、そのメカニズムを紹介したいと思います。もっとも私の考えですから、普遍的・一般的かどうかは分かりませんので、あしからずご了承下さい。

以前にもちらっと書きましたが、法律の効果は、法律に書いている要件にあてはまるとき、発生します。この要件というのは、法律には若干抽象的に書かれていますが、端的に言えば、客観的に存在した、あるいは、当時者が体験した事実です。効果というのは、権利とか請求権とか観念的なものですが、事実から法的に導かれる結果(結論)といってもよいかもしれません。

私達は、相談に応じる際、依頼者から聞き取った事実に法律の要件にあてはめて、それがもたらす効果が、依頼者の求める結果に合致するかを検討することになります。このとき、最終的には訴訟を見越して考えますので、依頼者の主張する事実を裏付ける証拠があるのか、といった点を最も重視しています。因みに、行列のできる…の番組では、VTRから結論を出すという形式のため、この立証の可否の判断は捨象し、VTRで出てきた事実については、全て立証できるという前提に立っていますので、実はあまり実際的ではありません。一般の方からすれば、「立証が難しい」という弁護士の説明について、弁護士が逃げているような印象を受けるかもしれませんが、負けた場合に一番痛みを受けるのは依頼者ですので、証拠が弱いのに、聞き取った事実だけでそう調子のいいことはいえませんから、なんとかご理解いただきたいと思います。

大きく脱線しながら結論めいたことにいきたいと思いますが、上記のとおり、
 �事実→�法律の要件へのあてはめ→�効果(結論)
という論理的な順序はあるのですが、実際には、私はこの順序で考えていません。
理由は、結論を導くのに時間がかかる、事実の聞き取りの途中で法律構成の目処が立つがゆえに案外と重要な事実の取りこぼしが生じる、結論部分が複数生じる無駄が発生する、というリスクがあるからです。
では、どうするのかというと、

 �依頼者が重要と思う事実を法的評価を離れてある程度聞き取る。
 �依頼者の求める結論は何か一緒に考える(依頼者は案外何を望むかを決めきっていないものです。だから、結論を一緒に探します。)
 �依頼者の求める結論を導く法律構成がないか検討する。
 �法律の要件に関連する事実を再度聞き取る。
 �不幸にも法律の要件にあたる事実がない、事実はあるが立証できないといった場合、法的な手段は採りえないことを説明し、どうしたら気持ちが収まるか一緒に考える。

というようなプロセスを踏むことになります。

ほとんど結論から遡って考えているに等しいことがわかります。
依頼者にとって、重要なのは、自分の抱えている問題がどう解決されるか、あるいはされないのか、ではないでしょうか。いくら事実をたくさんしゃべっても、いくら法律構成がたくさん可能でも、いくら結論がたくさんあっても、あまり意味はないと思います。目的地を決めずに、あてもなく、電車に乗る人はいないでしょう。
電車の経路検索のように、出発駅と終着駅は決まっているのです。それに必要な経路、法律構成を結論から導きだすには、上記のプロセスを踏んだ法律相談が実践的なのではないかと、今のところ、思っています。

経営判断も似たようなものなのかなあと、勝手に想像しています。