クレヨンしんちゃん「モーレツオトナ帝国の逆襲」 | 「繊細さんの応援歌を歌う。」繊細ソングライター磯中ゆうき

「繊細さんの応援歌を歌う。」繊細ソングライター磯中ゆうき

「これでいい。」って思えるのは正しいことに出会ったときじゃなく、
楽しいこと・元気になれることに出会ったとき。
聴くと自己肯定できるような音楽を届けたい。

僕がいちばん好きな映画です。

見るたびに泣いております。


僕なりにグッとくるポイントを書いてみます。



~僕なりの見どころ~

 

 

 

① ひろしの回想
満場一致の大感動シーンだと思いますが、

いわゆる「普通の父親」のこれまでの人生がダイジェストで流れます。
"普通だけど、幸せ"というのが心にグサッと、目に染みるほど、伝わってきます。

僕としては、ひろしの父(しんのすけからするとじいちゃん)が小さいひろしを自転車に乗せているシーンから始まり、
最後はひろしが築いた家族(みさえ・しんのすけ・ひまわり・シロ)と自転車で進んでいるシーンで終わるのがグッときます。
幸せの循環というか、「ここまでずっと誰かが一生懸命つないできてくれたことへの感謝」を感じられるシーンです。

 

他にも、細かいところで

ひろしが上京したてで、道で人にぶつかっても謝ってくれなくてびっくりするところとか

しんのすけが生まれる瞬間、病院まで走って入り口で人とすれ違う一瞬だけゆっくり歩くけど、すれ違い終えたら全速力で駆け出すシーンとか

会社からの帰り道、一瞬暗い雰囲気になるけど、家が近づいたら明るくなって
家では子どもたちと一緒にお風呂に入ったり、みさえがお酒のつまみに卵焼きを焼いてくれていたり、
 

この回想シーン、見れば見るほどグッとくるポイントがたくさんあります。

大切なことを教えてくれる、本当に良いシーンです。

・・・っと!!大事なことを言い忘れていました!

この回想シーンに入る前も泣けるのです。

この映画を知らない方のために、大前提として

「オトナ達が昔の"なつかしい匂い"に魅了されて、子供たちをほっぽり出して遊び出してしまう。」というような話になっているのですが、
回想シーンに入る前、少年時代のひろしが万博会場で両親に泣いてだだをこねるところから始まります。

「やだやだやだ、月の石見たい。アポロが月からとってきたんだもん」とひろし。

「そんな石なんか見てどうするべ」とお父さん(しんのすけのじいちゃん)。

これって子どものときにあるなってすごく思って、オトナからしたら大したものじゃないかもしれないけど、
子どもにとっては本当に泣くくらいに大切で、「子どもだからわかっていない」んじゃなくて、

「子どもだから見えている」んじゃないかと思います。そういうのって大切なんだと思います。

そのだだこねシーンに、しんのすけ登場。
「父ちゃん、帰ろうよ。」

 

このときの両親の表情が僕的にツボです。


困ったように笑って、去っていくんです。

これって親の「子どもと離れるのは寂しいけど(困り顔)、未来のため・次の家族(妻や子ども)のためにはしょうがない。笑って送り出そう。」

という複雑なキモチを表現しているんじゃないかと思うのです。

そのあと、ひろしは自分の靴のにおいをかがされて回想シーンに入るのですが・・・
アホっぽいですけど、ここも「別にいい匂いじゃないけど、本当は幸せな現実を思い出す」ってことでグッときますね。

すでに長いけど、まだ4分の1くらいしか語れてない!笑

② ひろしの葛藤
しんのすけのおかげで正気を取り戻して、懐かしい20世紀博会場から飛び出して、

懐かしい匂いを発しているタワーへ向かい、匂いを出す装置を止めに行く
という場面に移るのですが (※正確にはちょっとニュアンスが違うかもしれません。)
車でタワーに向かっているときに
「ちくしょう、なんでここはこんなに懐かしいんだ」とひろしが涙しながら言うセリフがあります。

個人的に初見のときにいちばん泣いたところはここで

これは誰しもが持つ「懐かしさにすがってしまう強い気持ち」といいますか、言い方を変えれば「過去への執着」、
でもそこに甘んじず「未来に向かって進まなきゃ」という人間の葛藤を描いていると思います。

「ちくしょう」と泣くくらい、苛立たしいくらい、過去が愛おしく、現実・未来が不安。

それを嘘偽りなく表現していると思います。

③ ひろしがエレベーターをこじ開ける
家族でタワーにたどり着くのですが、悪者(懐かしさを発している集団)も追いついてきて、
ボスがエレベーターを使って最上階に向かおうとします。
それをひろしが無理やりこじ開けて止めようとするのですが、、、

 

「つまらん一生だったな、野原ひろし」とボス。
懐かしさと共に生きればもっと幸せでラクだろうに、というような意味合いでしょうか。
それに対して、
「俺の一生はつまらなくなんかない・・・!!!」とエレベーターをこじ開けるのです。

これも人間の「自分の一生に対する不安」を表していると思って、
エレベーターが無慈悲に閉まろうとするくらい、不安とか恐怖とか悲しみとかが無慈悲に押し寄せてくるのが人生で、
でもそれを必死でこじ開ける、「俺の一生はつまらなくなんかない・・・!」 そんな矜持。生き方。

みんなそうなのかな、と思うと少し勇気が出るし
どうせそうなら、食い下がれるだけ食い下がってやろうじゃないか、とも思えます。

「家族がいる幸せをお前にも分けてやりたいくらいだぜ」ともひろしが言うのですが
"幸せ"のおかげで、辛い人生に対してこれだけ強くこじ開けられるということかもしれません。

④ みさえの捨て身
しんのすけがタワーを登っていくのですが、ひろしは追っ手をエレベーターで食い止め、
みさえはそのあと捨て身タックルで、追っ手を食い止めます。
そこでしんのすけに言うセリフが「止まらないで!!」

 

母親の大きな愛情というか、捨て身になってまでも子どもを守ることを表したシーンかと思います。
しかもそこで「止まらないで!」=「先へ進め!」と。
「(あなたの未来のために捨て身になったから)止まらないで!」という意味かと思います。

しんのすけがタワーを一生懸命登っていくシーン自体が、人生の比喩みたいで泣けるのですが
そこで家族がどんな風に関わってくれるのか、そんな見方をしても泣けてきます。(犬のシロも頑張ってくれます)


⑤ 「ずるいぞ!」
実はしんのすけより先に悪者たちがタワーの最上階に登りついて、
しんのすけはボロボロになってギリギリ間に合わないのですが、
"懐かしさ"の匂いは止まってしまうのです。

タワーを登って行く野原一家の様子がテレビ中継されていて、
その頑張りを見た町の住人たちが
洗脳から溶けて、「過去に生きる」のではなく、「未来を生きたい」と願い、
懐かしい匂いが薄れてしまうんですね。

これもすごく象徴的じゃないでしょうか。

未来に立ち向かっている人を見て、自分も「未来を生きよう」と思える。
ひとりの頑張りが、周りを変える、世界を変える。

こうやって、歴史が紡がれてきたのか、いままでつながってきたのか とも思います。

語り損ねていましたが、悪者はこうなってしまうことを多少予感していたのかもしれません。
野原一家がタワーに向かって走って行く姿を見て

「最近、走ってないな・・・」と言うんです。

未来に向かって生きるって「走る」ことかもしれません。
過去にどっぷりつかって生きるのも幸せかもしれませんが、
「走る」みたいな気持ちよさ・爽快感・達成感はないんだと思います。

走るから苦しいんだけど、走るから楽しい。

分かりやすくするために「悪者」って呼んでますけど、
彼もまた「不安を抱えながら正解を探す人間の一人」であって、
それどころか「みんなのために良かれと思って」懐かしさの町を作ろうとした、
立派な人です。決して、悪い人ではないと思います。

「未来へ生きるのが正解だ」としたときに、その考え方がそぐわないだけで、、、


本当は、誰もが、野原家と悪者の"その間"にいるのだと思います。現実は。

・・・と、肝心のタイトルのシーンまでまだたどり着いていないわけですが、
悪者たちは、「未来に生きること」に絶望して、自殺することを選ぶんですね。
タワーのてっぺんから飛び降りようとします。(ここまで語ってなかったですが、悪者はケンというおかっぱの男と、その恋人の二人組です)


そこでしんのすけが「ずるいぞ!!」と一言。
飛び降りようとした先からは、白いハトがバサバサッと来て、飛び降りるのを阻まれます。
そしたら女の方が「やっぱり未来に生きたい・・・」と涙。

しんのすけの「ずるいぞ」は実は二人がバンジージャンプ(しんのすけ風に言うとバンバンジージャンプ)すると思って、
二人だけでそんな遊びずるいぞという意味だったのですが・・・

悪者たちも「ずるいのかな」と少しでも思っていたからビクッとしたのではないでしょうか。

「やっぱり未来に生きたい・・・」 少しでもそう思いながら 死ねないですよね。死んじゃダメですよね。


~ここからまとめ~

深いですが、
「生きよう」というメッセージ。
「不安でも生きよう」「大丈夫」というエール。

すんごく深いところで人々を応援した映画なんじゃないかと思います。
「過去への執着」とか「生きることへの不安」という誰もが目を背けてしまう、でも確かにあるものを"嘘偽りなく引っ張り出して"、

「でも、生きようよ」という 肩をぽんと叩いてくれるようなニュアンス。

そんな映画なんじゃないかと思います。

 

 

ほぼ記憶だけで書いたので多分語り切れていないですし、
もう一度見直したらまだまだ書けることはありそうです。


つまりどういうことかというと、ぜひ観てほしい映画なのです。語りつくせないので。

 

子供向けのアニメなので、分かりやすいですし、コミカルに描かれていて、
まさおくんがトランスするところとかも個人的には大好きなんですが、
一方で、現実を一切脚色せず哲学が語られているとも感じます。

 

ので、僕の中でナンバーワン映画なのです!

音楽も最高ですし。



僕もこんな作品を作りたいです。

「嘘偽りなく哲学を語るけど、
それは希望のメッセージで、
観る者を楽しむエンターテイメントに昇華されている」

言葉にすればこんな感じでしょうか。