プログラムに寄せて。音楽評論家 スペイン文化研究家の濱田先生からメッセージが届きました。 | Musica del mundo a duo

プログラムに寄せて。音楽評論家 スペイン文化研究家の濱田先生からメッセージが届きました。

12月16日札幌にて、12月19日ボレロにて特別出演、そして12月21日、いよいよ川崎宮前市民館にて開催されるMusica del mundo a duo デュオで綴る世界の音楽~民謡~ コンサートのプログラムに寄せて、音楽評論家・スペイン文化研究家の濱田滋郎先生から、メッセージが届きました。
心のこもったお言葉のひとつひとつ。ぜひ大切にお読みください。

Musica del mundo a duo

女声デュオの素晴らしい世界に寄せて

ソプラノの高い声、メゾやアルトの低い声。
女性の歌声はどちらも魅力的です。しかし、それらがひとつに合わさる時の素晴らしさ―
私は以前から、その魅惑に惹かれてきました。レコードで聴いた、たとえばシュヴァルツコップフとゼーフリートが歌うドヴォルザークの抒情歌曲「モラヴィアの二重唱」、あるいはミレッラ・フレーニとテレサ・ベルガンサが歌う、ペルゴレージの珠玉の宗教曲「スタバート・マーテル」、、、したがって、今ここに、スペインのソプラノ、クリスティーナ・カルボと日本のメゾ・ソプラノ、安部綾が繰りひろげる二重唱は、すぐれた人材によるだけに、そうした魅惑の世界を私たちの胸の内に描き出してくれるに違いない、と期待されます。
 レパートリーに関しては、スペインで結成され、スペイン語の曲目を主に手がける二人ですから、また格別な期待があります。スペイン独特の舞台音楽サルスエラでは、古くから折りにふれて女声のデュオが挿入されました。母と娘、姉妹、友達同士、奥方と小間使い、、、といった登場人物が、それぞれのシーンで歌うものです。ほかのスペインの歌の世界でも、二重唱はけっして稀なものではありません。
 そしてとりわけ、女声の二重唱が聴きてたちを魅了してきたのは、中南米の歌の世界です。メキシコやキューバの抒情的なカンシオン(唄)やボレロ(スペインのそれとは違ったリズムを持つ歌謡)の領域では、よくある「エルマナス・~」(~姉妹)のかたちで、女性二人(じっさいに姉妹であるか、友人同士なのかは問わぬとして)がデュオを繰りひろげる習慣が、昔から今まで脈々とつづいています。
 今夕お聴きの曲目中では、キューバの大家エルネスト・レクオーナや、101歳まで生きた同じ国の吟遊詩人シンド・ガライなどの作品、あるいはメキシコでほとんど民謡のように
歌われてきたエスパルサ・オテオ作の「ミ・ビエホ・アモール(私の古い恋)」、セラデル作「ラ・ゴロンドリーナ(つばめ)」(メキシコの蛍の光です)などは中南米のいわゆる「ナツメロ」にあたりますが、決して古びてしまった歌ではありません。たとえてみれば椰子の木立のかなたの夕映え、湖の波に砕ける月の光が、いつの世にも人の心に夢や憧れをもたらすのと同じで、これらの甘美なメロディーは、決して老いていくことなく、文字どおり永遠の生命を保っているのです。
 それではみなさん、くつろぎ、心をひらいて、女声二重唱の魅惑に癒され、ときめかされるひとときをお過ごし下さい。きっと、忘れられぬ一夕になることと私も楽しみにしています。

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濱田先生の心を込めた、想いを込めた文章のひとつひとつのお言葉が、あらゆる感性にズンと響いてきます。
「いつの世にも人の心に夢や憧れをもたらす」の一言。夢や憧れに満ちた民謡。是非ご来場いただき耳を傾けていただきたいです。

Musica del mundo a duo