阿久悠が書いた、八代亜紀初の男歌。
寡黙な船乗り男の価値観提示と、ダンチョネ節引用に技アリ!
「私はデビューの頃から辛い人や悲しい人、苦しい人の代弁者のつもりで歌ってきました。」
2021年、デビュー50周年のインタビューで、八代亜紀は自分の歌手人生をそう振り返っている。その言葉通り、八代はデビュー以来、道ならぬ恋に苦しむ女心を歌い、「なみだ恋」「おんな港町」などのヒット曲を連発して来た。
そんな八代が、初めて「男歌」に挑戦したのが、79年の「舟唄」。
長らく候補止まりだったレコード大賞を八代に!と、所属のレコード会社がヒットメーカーの作詞家・阿久悠に初めて発注。阿久が書いたのが、冬の港町の酒場で一人晩酌する男の独白で綴られたシンプルな歌詞だった。
「お酒はぬるめの燗(かん)がいい」「肴(さかな)はあぶったイカでいい」と、最初の二行で、冬の寂れた飲み屋の囲炉裏端で猪口を静かに傾ける頑固そうな男の姿が想起される。
歌詞はさらに「女は無口なひとがいい」「店には飾りがないがいい」と続き、世の虚飾や喧騒に背を向けて生きる主人公の男性の生き様がしっかりと示される。
「この価値観を共有出来る人だけ、この歌を聴いてくれればいいから」と言わんばかりの敷居の高さを築き、逆にリスナーを引き込む阿久の作詞術が見事。
この曲のハイライトは、間奏前に挿入されるダンチョネ節。
大正時代に神奈川県三崎市で発祥したこの民謡は、その後全国に広まり、戦時中は軍歌の替え歌も生まれた。さらに、60年には小林旭が「アキラのダンチョネ節」としてリリース。
荒れ狂う海に挑む船乗りは、明日の生命の保証がない危険な仕事。
出船の度に好きな娘を泣かせてしまう…という船乗りの悲哀を歌ったこの唄を間奏に置くことで、「舟唄」の歌詞世界はぐっと奥行きを増している。
阿久の男臭い歌詞に、八代のハスキーな声がぴったりとハマり、ラストの「歌い出すのさ!舟唄を」は勇ましさ極まりない。歌う八代の背後に、ドドーン!と荒れ狂う日本海の高い波しぶきが…見えた!
「舟唄」
作詞:阿久悠
作曲:浜圭介
編曲:竜崎孝路
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