カフェでの「かまってちゃん」女性をコミカルに描写。
森高千里を先取りした、近田春夫のホンネ女子歌謡!
「ヒガミ、ネタミ、ソネミ。この三つを彼女たちは描こうとしないけれど、私は言葉のプロレスラーになって、いままでのキレイキレイエッセイをぶっこわしちゃおう」
1982年、林真理子はエッセイ「ルンルンを買っておうちに帰ろう」で、既存の女性エッセイが綺麗事ばかりで、女性のホンネから乖離していることを指摘。美人が優遇される当時の就職事情や、モテる女友達への嫉妬心を赤裸々に描きベストセラーにした。
そんな林が描いた「女性のホンネ」を、歌謡曲に最初に導入したのが近田春夫。
72年、近田春夫&ハルヲフォンでデビューした近田は、音楽プロデューサーとしても活躍。
80年にジューシー・フルーツをプロデュース。
ジューシーは、近田のバックバンドにギターで参加していたイリアこと奥野敦子をヴォーカルにした女性一人男性3人の4人バンド。デビュー曲「ジェニーはご機嫌ななめ」は、テクノ風アレンジとイリアのファルセットボイスで注目され、オリコン5位、37万枚のヒットになった。
「なみだ涙のカフェテラス」は、続く2枚目のシングル。
近田の描く歌詞は、男にフラれた女性のカフェでの愚痴で構成。
主人公は「マスカラ 口紅 めちゃくちゃ」になるほど泣きじゃくり、「このカフェテラス 思い出だらけ つぶれちゃえばいいのに」と暴言を吐く。間奏の「あれ!あたしってひょっとして暗い性格なのかしら」という自虐セリフには、当時タモリが流行らせた流行語「ネクラ」が反映されている。
それまでの歌謡曲に登場する失恋女性の悲哀に満ちた佇まいは、この曲では皆無。
「かまってちゃん」と化した若い女子の荒れる様子が、コミカルに描かれている。
近田はジューシーに、彼氏に高級車でのドライブをねだる「恋はベンチシート」の他、「メロドラマごっこ」「母がいろいろとうるさいの」など「若い女子の赤裸々なホンネ」を描いた歌詞を提供。
近田が開拓した「女子のホンネのコミカル歌謡」は、シュガーやキョンキョンが継承し、後に森高千里が本格的に展開するのだった。
「なみだ涙のカフェテラス」
作詞:近田春夫
作曲:柴矢俊彦
編曲:Juicy Fruits