イカした車でもこの愛は釣れない!
バブル渦中、ユーミンが若者の恋愛の金満化にアラーム発信!
「お洒落でリッチな人はもっと精神的な所に行くと思いますね。」
1988年秋のアルバム「Delight Slight Light KISS」発売時のインタビューで、ユーミンはそう語った。
80年代半ば、急速な円高が進行し、地価や株価が高騰。日本にバブル景気が到来。
その影響は若者文化にも及び、リッチな大学生男子は4WD車の助手席にガールフレンドを乗せ、こぞってスキーリゾートへ。このリゾートブームを牽引したのは87年公開の映画「私をスキーに連れてって」。彼らの車中のBGMは、映画で使われたユーミンのリゾートソングたちだった。
「Delight〜」は、そんなバブル景気の最中にリリース。
CDジャケットは、エッシャーのだまし絵をモチーフにした3D仕様。当時の邦楽市場最速でミリオンセラーを達成。
80年代後期のユーミンの作品群は、そんなセールスの派手さによって「バブルの象徴」として語られることが多い。だが、その渦中でユーミンが一貫して提唱していたのは「物質的なリッチさの先にある精神的なリッチさ」だった。
「Delight〜」の7曲目「恋はNo-return」は、それをストレートに歌った純愛讃歌。
クルマ、レストラン、ホテル…と物質的な環境が豊かになるにつれ、そこで行われるキスやセックスの価値が逆に下落しちゃいないか…?ユーミンは「イカした車でもこの愛は釣れない」という痛烈なフレーズで、金満化する若者の恋愛事情に疑問を呈した。
ユーミンの弾けた歌唱と華やかなブラスが掛け合うキャッチーな楽曲。
当時最先端のシンクラヴィア使用のデジタルサウンドも耳に新しかった。
だが、ユーミンが提唱した「物質的なリッチさの先の精神的なリッチさ」が十分浸透しないまま、91年にバブル景気は崩壊。代わりに、身の丈にあった質素な暮らしを提唱する中野孝次の「清貧の思想」がベストセラーになり、人々の行動指針はそちらに傾倒していくのだった。
「恋はNo-return」
作詞・作曲:松任谷由実
編曲:松任谷正隆