戦いの舞台は、お茶の間から宇宙へ!
小林亜星が秀樹に贈った、最後のアニメソング
「僕が作ったアニメの曲では一番だと思う」
小林亜星は、1999年放送の「(ターンエー)ガンダム」の主題歌「ターンAターン」を顧みて、晩年にそう語った。
歌唱は、西城秀樹。
二人は、74年のファミリー喜劇ドラマ「寺内貫太郎一家」で親子役で共演しており、劇中のお茶の間での二人の取っ組み合いの喧嘩が名物だった。
二人はもみ合い、タンスを壊し、障子を突き破り、大乱闘。
撮影中、亜星に投げ飛ばされ、秀樹が右腕を骨折するという事故が起こるほど、それは壮絶なものだった。
この大喧嘩シーンが評判を呼び、番組は平均視聴率31.3%を記録。
70年代ドラマの代表作になった。
「ガンダムの主題歌を歌ってくれないか?」
それから四半世紀後の1999年。
ガンダム主題歌を担当することになった亜星は、歌唱者に秀樹を指名する。
この年、66歳の亜星はアニメソングからの引退を決めており、自身最後のアニソンを、どうしても秀樹に歌ってほしいと考えた。
だが、秀樹にとって「ガンダム」は未知の世界。
ガンダムソングの先輩・森口博子に話を聞き、富野由悠季監督に「ターンAとは何か?」という2時間超(!)に渡る講釈を受けながら、レコーディングに臨んだ。
いかにも真面目な秀樹らしい予習だ。
「刻が未来にすすむと 誰がきめたんだ」
その結果、主題歌「ターンAターン」は、ガンダム史上でも群を抜いてドラマチックな楽曲に仕上がった。宇宙の歴史に言及したスケール大きな世界観を、秀樹は豊かで伸びのある歌唱で、見事に表現している。
思えば、秀樹はアイドル時代から「激しい恋」「情熱の嵐」「恋の暴走」など、ドラマチックで激しいラブソングの名手だった。
だが、80年代以降、日本のポップスがよりカジュアル化する中、秀樹の歌世界がやや重すぎ、時代と合わなくなっていたのも事実。
そんな秀樹の重厚でスケール豊かな歌唱は、非日常的なアニメ主題歌の世界でこそ、もっと発揮されるべきだったかもしれない。
たとえば「我が青春のアルカディア」や「銀河鉄道999」など、宇宙の深遠さを描いた松本零士アニメ。
たとえば「疾風ザブングル」や「エルガイム」など、重厚なロボットアニメ。
これらの主題歌を、西城秀樹の歌唱で聴いてみたかった!カバーでもいいから!
「ターンAターン」を聴きながら、つい妄想してしまうAOIなのだった。
「ターンAターン」
作詞:伊萩麟
作曲:小林亜星
編曲:矢田部正