ネグレスト=育児放棄
というと、
親が遊び回っていて、子どもは産みっぱなしで世話をしない、
食事を与えず、風呂にも入れず、
という感じを想像なさることと思います。


Sが小学校の卒業アルバムを受け取ってきて、
みんなで眺めていたら、
入学式の写真にSがばっちり写っていました。
隣は今はもうお引っ越ししてしまったHくん。

Hくんのご両親は、高学歴で、パパは一流企業にお勤め、
海外勤務から帰国されてその会社の社宅に入ってきました。
ママは都内の音大ピアノ科卒。
中学時代からピアノだけをやってきたお嬢さま。

ママ様はパッと見はきちんとした方なので、
Hくんと妹のAちゃん、ともに身なりはきちんとしています。
Hくんはご両親のDNAを受け継いだのでしょう、
頭の回転もよかったし、運動神経も良く、
生まれ持った性質としての能力は高いお子さんだったと思います。

ですが、残念なことに最低限の躾しかされていないのです。
人見知りなどしないので、挨拶はきちんとできます。
よその人ともきちんと話せます。
でも、空気が読めないというのでしょうか、
その年齢なら知っていて当然の
人との関わりに関する常識を教わっていないのです。

休日の朝8時から、社宅内の子どもがいる家に
遊んでくれる友達が出てくるまで、ピンポンし続ける。
よそのおうちに勝手に上がり込み、
おやつを食べ放題。
学校に上がってからは、給食をものすごいスピードで完食し、
ほかの子が食べ終わる頃には、おかわりの分もすべて食べ尽くす。
(つまり、ほかの子はおかわりができない)
妹のAちゃんは4歳になってからも、
いつもお菓子を持ち歩いているよそのママのバッグを
無断で漁る。

私が音楽関係の仕事をしていると知って、
ママ様とはいろいろとお話をしましたが、
印象として、
「子どものことは嫌いじゃないけど好きでもない」
「私はピアノさえ弾いていれば幸せ」

ゆえに、時間もお金もそれなりにあるのに、
子どもには興味がないため、
前述のように、よそさまにご迷惑をおかけしていると知っても、
自分のエネルギーを使ってそれを改善しよう、
という意識が希薄な感じで、
休日の早朝訪問や、よその人の荷物を開けるなど、は
ずっと続いていました。

お子様方の将来のことなども、
「次に海外勤務になったとして、○年生に帰国すれば
 私立中に帰国子女枠で入れる」
などとおっしゃるばかりで、
「いかに親がラクをして、進学させるか」に焦点が合っているようでした。

パパ様も、ご自身の趣味がたくさんあって、
そちらにばかり忙しく、
海外(そんなに遠くない地域)へ長期出張などの間にお子様の行事が入っても、
「○○(風光明媚な観光地)に行ってみたいから、帰国はしない」
などとおっしゃっておられました。

ご夫婦ともに、自分に正直な方なのでしょうが、
子どもたちは親が目の前にいるにもかかわらず
相手にしてもらえないのです。

二人とも、家でも外でもものすごい食欲でしたが、
満たされない思いを、食欲を満たすことで
代わりにしていたのだと、
後日、子どもの心理学の本を読んで知りました。

<お世話>は、きちんとしてもらっていても、
そこに気持ちがこもっていなければ意味がないのだと、思います。