こんにちは。楽譜浄書家・森本良子です♪
また引き続き、楽譜の歴史をまとめています。
今日は、アーティキュレーションと奏法記号の歴史です。
゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゚゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・
楽譜の中には、さまざまな記号が使われていますが、前回一部その歴史をご紹介した発想記号は、曲全体やフレーズなど、広い範囲の雰囲気を表すものでした。
強弱記号、速度標語、その他表現に関する楽語などが、それにあたります。
一方、奏法記号またはアーティキュレーションは、短いフレーズや一つの音など、より狭い部分に対して使われています。
-
スタッカートは数種類
スタッカートは「短く切る」という意味ですが、その種類はいくつか見られ、それぞれ切り方や鋭さ、柔らかさなどが異なっています。
通常の(・)で示されるスタッカートのほか、テヌート(ー)と合わせたメゾ・スタッカート、くさび型のスタッカーティッシモ(マルテラートと呼ぶこともある)が一般的です。
メゾ・スタッカートはスタッカートよりも幾分やわらかく、そしてスタッカーティッシモはより鋭くするとされています。
これ以外には、ショパンで多用された「雨だれスタッカート」と呼ばれる記号もあります。
またスタッカートは、英語では「切る」という表現ではなく、shortと説明されます。
-
アクセントとテヌート(と三善アクセント)
アクセント( > )とは「強調する」という意味で、英語ではstress(圧力をかける)と言われます。
テヌート(ー)は「保って」と訳され、英語ではholdという言い方をします。
アクセントにも数種類の記号があり、山型アクセントのアクセンティッシモのほか、アクセントテヌート、アクセントスタカートなど、ほかの記号と組み合わせたものもあります。
これらアクセントはアタックをつけて演奏されますが、作曲家によっては、スタッカートの記号を用いて、アクセントの意味合いを表現したとされるものもあります。
ベートーヴェンが特に有名ですが、これはまだ当時、こうした表現を示す記号が多くなかったためです。
その後18世紀になって、作曲行為と演奏行為が切り離され、楽譜により細かな指示がなされるようになってから、さらに新たな記号が多く生み出されました。
その一つが、スウェル(< >)という記号です。
アクセントが向き合った形で、同じく強調を示す記号です。
日本では「三善アクセント」という呼び名が一般的ですが、これは作曲家の三善晃さんが多用したことから定着したと言われています。
スウェルとは、swellつまり「うねり」を表しており、ロマン派の作品で多く使われました。
-
フェルマータと休止
フェルマータ(𝄐)は、音符や休符のうえに付けられ、「伸ばす」あるいは「延長記号」として認識されています。
しかし、もともとのイタリア語は「止まる」という意味で「伸ばす」の意味はなく、動きを止める、終わるという意味です。
バロック以前の音楽については、フレーズの終わりの音、あるいは終止線の上に見られ、文字通り「終わり」を意味しました。
その後、古典派以降になって、この記号のついた音符あるいは休符で「動きを止める」、つまりは長さを延長するという意図で、使われるようになりました。
後期ロマン派の時代になると、フェルマータの上にpocoなどと、言葉を書き足して使われることも多くなりました。
さらに、そこから延長時間の違いを明示するべく、フェルマータの新しい記号が生み出されます。
三角フェルマータ、半円フェルマータ、方形フェルマータなどがそれにあたります。
そしてこれらの記号は今も、現代音楽において広く使われています。
*補足(浄書の中での扱い方)
多声部音楽では、フェルマータは全声部に表記することになっていましたが、作曲家の間では実際にはそこまで徹底されていなかったようです。
しかし浄書の世界では、現在もその記譜法に則り、各声部に表記するものとされています。
-
アーティキュレーション・スラー
スラーにも、使われ方や意味合いの異なる数種類のスラーがあります。
一つはフレージング・スラーで、これは文字通りフレーズを示すために描かれるスラーです。
長いフレーズにも使われ、ロマン派以降では8小節または16小節といった広い範囲をカバーすることもあり、音楽解釈に関わる記号でもあります。
もう一つが、レガート・スラーと呼ばれるもので、隣り合った音を切らずにつなげる(滑らかに)、という意味で使われるスラーです。
フレージングスラーよりも短く、狭い範囲に使われることが多く、演奏方法または表現方法を指示しているとみなされます。
そして最後の一つが、アーティキュレーション・スラーというものです。*タイではない
これは弦楽器においてはひと弓で(ボウイングを返さないで)、管楽器では息を切らさず(タンギングなしで)、また鍵盤楽器では音を切らさず(滑らかに)という指示で使われています。
レガート・スラーの使われ方と似ていますが、この記号が異なるのは、パッセージの中で2音ごとに付けられるなど、レガート・スラーよりもさらに短い部分でも使われることです。
どちらかというと、表現方法というよりは、奏法の記号とみなされています。
アーティキュレーション・スラーは古典派音楽の時代から見られるものですが、実は19世紀初めまでは一つ目の音符にアクセントがつき、二つ目(あるいは終わり)の音はディミヌエンドのように処理するのが、一般的だったようです。
つまり、アーティキュレーション・スラーはもともと強弱に関連した記号だったと考えられるのです。
これが現在では、強弱記号自体としての意味合いが薄れ、その表現を可能にした奏法だけが、記号の意味として残されていると考えられています。
*参考文献
「楽譜をまるごと読み解く本」(ヤマハミュージックメディア)