サードドア | 酒場ピアニストがんちゃんのブログ - 読書とお酒と音楽と-

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昼はジャズ・ラウンジピアノ講師 (江古田Music School 代表)

夜は銀座のBARピアニスト(ST.SAWAIオリオンズ専属)

コロナ禍ではジャズの独習用eラーニング教材を開発してサバイバル

そんな筆者が綴る、ブックレビューを中心とした徒然日記です。

■サードドア 精神的資産のふやし方

 

2021年 最初の読書はこの本

 

いきなり大当たり本を掴みました。

 

例えるなら、ポーカーで初回からストレートフラッシュを完成させたような気分。

 

それなりに本は読む方で(昨年は150冊を読了)、面白い本に当たる機会も多く、その内の幾つかはブログでシェアしてきましたが、これはその中でもズバ抜けて面白いです!

 

本書の読書体験について述べれば、「読書」というより「映画鑑賞」に近い気がします。

 

●感情移入のしやすい主人公

 

●起伏に富んだスリリングなストーリー

 

●エピソードを通じての主人公の成長

 

「映画」の醍醐味であるこれらの要素が、本書にはギッシリ詰まっています。

 

冒頭の5分で一気に心を掴まれ、その後120分間の展開に目が離せなくなる映画のごとく、本書の最初の10ページを読めば、続く400ページを超えるボリュームも何のその! その引力に抗うのは多くの人間にとって困難なタスクとなるでしょう。

 

さて、煽り気味に一気にまくし立てましたが、これには理由があります。

 

実は2019年にも本書を手に取ったことがあるのですが、その時は概要をチラ見しただけで読むには至らなかったのです。

 

今思えば私の読書史における最も愚かな判断の一つになりますが、その敗因は本書を次のようにジャッジした事です。

 

「ありがちな成功者列伝」

 

本書には「成功者達へのインタビュー本」の面もあり、ビル・ゲイツ、ラリー・キング、クインシー・ジョーンズ、レディー・ガガ・・・誰もが知っているビッグネームが綺羅星のように並んでいます。

 

そして本書の帯には次のキャッチコピー。

 

いつだってそこにある「成功への抜け道」

何物でもない自分の、何者かになる物語。

 

当時の自分はこれらの情報を結びつけて、本書は次のような内容だろうと当たりを付けたのです。

 

「成功者達へのインタビューから、成功につながるエッセンスを抜き出し、わかりやすく編集した本」

 

そして、こう思いました。

 

「まあ、他に読みたい本もいっぱいあるから、これはいいや!」

 

・・・まったく馬鹿な事をしたものです。

 

せめて10ページでも読めば、その判断が大間違いである事がすぐわかったものを!

 

本書の面白さの本質は、インタビュイー(取材される側)のネームバリューに在るのではありません。

 

勿論それも重要なファクターである事を否定しませんが、本書の本当の面白さはインタビュアーであるアレックス・バナヤンその人にあります。優れた映画に優れたキャラクターが欠かせないように、彼の存在こそが本書を卓越したレベルに仕上げていると言っても良いでしょう。

 

本書に登場するインタビュイー達は、いずれも錚々たる面々。特筆すべきは、これらのインタビューが大手出版社の企画により実現したものでなく、まだ何者でもない18歳の大学生アレックス・バナヤンが、俄かには信じられないドラマチックな方法で大物達とのインタビューを実現させたこと。

 

偶然に近い成り行きでたまたま出場した視聴者参加番組『ザ・プライス・イズ・ライト』(目の前に出された商品の金額を複数人で予想し合い、一番近い金額を提示した人がそれを得るという企画)で優勝し、その商品を換金し「自分らしい人生のはじめ方」を探す旅に出るなんて、のっけから普通でないでしょう。

 

本書には映画に通じた面白さが随所にありますが、これについて考えてみる事にします。

 

映画の脚本術として有名な書にブレイク・スナイダーの書いた「SAVE THE CAT の法則」という本があります。

 

 

"SAVE THE CAT" というのは文字通り「猫を救え」という意味。このポイントは主人公が「猫を助ける」ようなエピソードを冒頭に盛り込むことで、観客に主人公への共感・好感を持たせる事にあります。

 

たとえば、ディズニー映画「アラジン」は冒頭わりとすぐに、お腹を空かせたアラジンがパンを盗むシーンから始まります。追っ手を振り切って、一息ついた所でパンを食べようとすると、目の前には自分と同じくお腹を空かせた子供達が。アラジンはせっかく盗んだパンを子供たちに与え、この瞬間に盗人のアラジンに対する観客の共感が生まれる。これが"SAVE THE CAT"のセオリーです。

 

 

本書「サードドア」は、このセオリーが見事にハマっています!

 

本書の主人公の一番の特質は「被共感力」とでも言いましょうか。アレックス・バナヤンは大半の一般人が有している「怖れ」や「弱さ」を普通に抱えていて、出自も取り立てて恵まれたものではありません。大物達とのインタビューにしても、一つのコネを元に芋づる式に上手く進むわけでもなく、辛酸を舐め、現実に打ちのめされることもしばしば。

 

そんな彼の物語だから、エピソードを追いながら興奮の展開に手に汗を握ったり、連敗が続いた時は自分に照らし合わせて「わかるよ」とつぶやいてみたり、気が付けばそんな「応援モード」にいつの間にか入ってしまっているのが本書の面白さでありマジックなんだと思います。

 

さて、色々書いているうちに文字カウンターが2,000を超えていました。興味を惹かせつつもネタバレは避けるのが最近の信条なので、本書についてはこれ以上書かず、皆さまの楽しみをとっておく事にしましょう。

 

映画さながらの最高の読書体験!

 

2021年の外さない一冊として、本書「サードドア」を強く勧めます!!

 

岩倉 康浩

 

江古田Music School 代表

 

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