syrup16g「Kranke」 | MUSIC TREE

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邦ロックを中心に批評していく
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ー ex.異常 ー

正常に戻った五十嵐の歌う曲はどんなに絶望を投影しても爽やかだ。
「Kranke」ドイツ語で患者という意味。もし彼が自身を患者に喩えていたとしたら、この作品は、そうだった頃の回想をモチーフにしたものだ。

今作の曲はシロップの各時期を端的に表すシーンを描いている。
「冷たい掌 」は『Delayed』の頃の暗く切ない部分を。
vampire's store は『coup d'Etat』のハードでソリッドな側面を。
「Thank you 」では『Hell-See』の持つ生々しい肉体性を。
「To be honor 」は『Mouth to Mouse』の優しくもヘヴィな核を。

過去の彼らを彷彿させながらも今のシロップを表現している。と言うと如何にもそれらしいがそうじゃない。何故なら、患者として彷徨って、行き着いた今の彼はその景色を俯瞰して、もうその先を描けると思うから。
だからあくまでも、この作品は通過点でしかないと思う。
”冷たい掌を握り直して未来へ連れていこう”「冷たい掌」
”いっそ悲しみごと 抱き締めようか”「To be honor」
この歌詞のように次を予感させる部分が垣間見える。

異常と正常の結界を破って、血と汗と涙が、混じり合ったようなロックが彼の作る音楽だった。その混沌とした泉から出てから月日が経ち、今シロップはもっと、より遠くに、そこから離れる必要があるのだろう。

きっと、五十嵐の中には底抜けにポップなメロディーが見えているはずだから。それを見せてくれるのはいつでもいいんだが、やっぱり今であってほしい。その時、本当の意味で”syrup”のような音楽が溢れ出す。

Kranke/DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECT

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