浅井健一『Nancy』 | MUSIC TREE

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邦ロックを中心に批評していく
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浅井健一(ベンジー)にとって音楽的にロックンロールであることと、アーティストとしてファンタジスタであることは同居していると思う。彼が生み出すぴんと張りつめた緊張感のある楽曲に、ロマンティックな歌詞が乗っかったとき、彼の音楽は始まる。BLANKEY JET CITY以降のソロや別バンド活動では、ベンジーの独特の音楽性が放射線状に伸び、星空のような自由な世界観が広がっていった。しかし、ポップミュージックのコマーシャリズムの側面からみると、随分遠い存在にはなっていた気がする。ただ、今作は少し様相が違う。普遍的なロックが感じられて、魔法の世界に入り込んでしまうのに、すごく聴きやすくてポップなのだ。何故なのか考えてみたが、おそらく今作で実感出来たものは、元々ベンジーの世界に存在していたもので、今までは場所や空間、時間軸が違ったため同時に感じることができなかったが、今は同じ空間にあるからこそ、すべてを一瞬に体験することが出来る。それがこの『Nancy』の持つ気持ち良さにつながっているのだ。すべての事柄が結ばれている”あの細く美しいワイヤー”のようなもので。ほら、あなたにも見えるでしょう。素晴らしい世界が。