黒夢『黒と影』 | MUSIC TREE

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邦ロックを中心に批評していく
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黒夢の作品が届く度、一抹の不安を感じつつ向き合わなくてはいけない、そんな時期がずっと続いていた。90年代末期の黒夢の存在を少しでも知ってる身としては、どうしてもソリッドな顔を魅せるミニマムなコード進行のロックを提示していた、あの頃の幻影が頭にこびりついている。しかし今作では、そのシンボリックで理想的な音に近づきつつある事が端的にわかる。理由の一つは、編曲にメンバーの人時が携わっている曲が多いという点だ。黒夢というバンドの特徴を一番短で見れる位置に彼はいるし、寧ろ清春より、客観的にバンドを見ることができるだろう。黒夢ってこういうロックでしょ?っていう音が鳴っている、その気持ちよさが全編を流れている。それがリスナーの求めている黒夢像により近づいた要因の一つだ。もう一つは清春自身がリスナーが求める、黒夢の清春を体現する事に気負いが無くなった、そんな姿勢が感じられる。バンドが過激であれば、過激であるほど、それを復活させたとき100%の再現は出来ないし、寧ろそれが健全である。だからこそ、Sex Pistolsの様な、バンド自体を一種パロディ化させた復活。椎名林檎が東京事変でみせた、林檎自身を客観視する事にによる、再構築。こういう方法論が、黒夢の再現には最も有効なのだと思う。図らずも、今の彼らはバンドをカッコよく、自分達の理想像を掴み取るために、徐々にその方向に歩を進めつつあるのだ。sads、ソロを経て今こそ、黒夢本来の持っている、大それたアレンジも必要ない、簡潔で、タイトなロックがシーンでも求められてきてると思う。彼自身は、その役目を担っていくつもりはもう無いのだろうが。2014年、もう暗黒を語ることも、何かの影を追うことも無意味になってしまったと思う。閉塞感を破る義務は誰にでもあるのだし、僕たちはそれでもロックに希望を託すつもりだ。