彼女でさえ3.11に向き合わざる負えなかった作品。というより、元々その姿勢を持っていたアーティストだという意見もあるだろう。確かにそうなのだが、あれからもうすぐ3年が過ぎようとしている今、時間の経過と共にそれを歌う意味は、また変わってくるはずだ。玉田、山口とのトリオのアンサンブルは安定感を増し、小谷美紗子の音楽を決定付けている。しかし今作で一番圧巻なのは、彼女の真骨頂でもあるピアノのみで綴られる「東へ」だ。自身の選んだ道を憂いながらも、確信を持って突き進んで行く風景は震災後の地平線と重なり、不安と希望が絡まり描かれる。鍵盤の音と声だけが響き、全てを浮き彫りにしているようだ。またパーソナルな愛を歌った「すだちの花」は彼女らしさが滲み出ている。ラストの「Recognize」は何時ものハイテンションでリズミカルなトリオたちで幕を閉じる。相変わらず、個の証明を楽曲で、力強く示してくれる彼女にはいつも勇気付けられる。日常にある悲しみや葛藤の原因を手繰り寄せて行ったとき、その一つにあの日がある。それは絶対に抗えない、日本にいる限りは。彼女にとって、それを作品に落とし込むまでにこれだけの月日が必要だったのだろう。自分の身に直接冷たさが伝わってからでないと、人は悲鳴を上げることはしない。綺麗事ではない、本当の私たちを捕まえてこそ、純潔の歌として伝えることができるのである。