「あんたはじぶんの好みに忠実だから」
とは、阿部珠樹さんによく言われたことだ。
なるべく本気で惚れこまないように自制しているのは、そうしないと、亡父のような、メンタル面での本物のマニアになりかねないからである。
したがって抑圧傾向にあり、ツンデレで犬なのに猫みたいな性格を有すると言われる柴犬みたいな気質を自覚している。
植木等さん、柳家小三治さん、戸田恵子さんをリピートして観るのも、好みに忠実だからだろう。
そこに、野茂英雄さんが加わってくる。
野茂英雄投手が、二度目にドジャースに入ったとき、ロバーツ監督は1番打者だった。
ポジションはセンター。
足が速く、守備範囲が広い。
野茂、石井両投手はかなり助けられていた。
ただ、肩が弱かった。
対戦チームが一死三塁でセンターにフライを上げると、1点献上はほぼ確実だった。
が、野茂・石井おふたりとも意に介していなかった。
それだけの信用を得ていたと映った。
打者としては巧打俊足、イチロー選手のレベルには至らないが、内野間の深いところにゴロを転がせば内野安打になる確率が高かった。
ランナーになればすぐに盗塁を仕掛ける。
2番打者がいまレッドソックス監督のアレックス・コーラで、このひとがまたバント、エンドランその他、進塁打を打つのに長けていた。
スモール・ベースボールというより元祖ドジャース戦法の継承者でたちあり、この点では走れるベッツ・大谷の1、2番は理想のスラッガーだろう。
大谷翔平選手の得点圏打率が低いとか、ホームランが減ったとかいう批評が出ているけれども、野球はチームスポーツ、目標がワールド・シリーズなら「私」を殺すのは、強いチームの打者の在り方である。
野球とミュージカルが似ているという公理を知らないのだろうか?
スキルとキャリアの点で、山本由伸投手は野茂・石井両投手を上回っているが、先輩のおふたりは、いい意味で図々しかった。
自信のストレートがスタンドに運ばれたところで、いちいち表情を変えてはいけない。
バックが見ているし、ロバーツ監督もこの点でのタフさをシビアに見据えているとおもう。
メジャーリーグは富豪の草野球…と、阿部珠樹さんは辛辣、的確に評していた。