南極海に供給されるダストと気候の関係 | さまようブログ

南極海に供給されるダストと気候の関係

http://www.nature.com/nature/journal/v476/n7360/full/nature10310.html


 過去400万年、陸から南極海に輸送されたダストの量と気候には強い相関がある、との報告です。

 寒冷化が進むと、陸は基本的に乾燥に向かいます。また、寒冷化が進むと地球の平均風速が増す傾向があります。この2つが主因となり、寒冷期には陸から海に送られるダストの量は増加します。

 さて、陸から海に送られるダストには鉄が含まれています。以前紹介しましたが、 陸地から遠い海では、海水に含まれる鉄濃度がプランクトン増殖の律速になっています。つまり、


気候の寒冷化→海洋への鉄供給の増加→プランクトンの増加


 というストーリーがあるわけです。

 問題はこの次。プランクトンが増加したときに起きる現象です。

 有孔虫円石藻 など、石灰質の殻を持つプランクトンがいます。鉄が増加するとこれらのプランクトンも増加します。すると、多くの二酸化炭素が炭酸カルシウムとして固定されることになります。そして、炭酸カルシウムは一部は海底に沈殿してしまい、炭素循環から切り離されてしまいます。結果、大気中の二酸化炭素は減少し、さらなる寒冷化を招きます。よって、


気候の寒冷化→海洋への鉄供給の増加→プランクトンの増加→大気中の二酸化炭素の固定→さらなる寒冷化


 という、生物由来の「正のフィードバック」が起きてしまうのです。寒冷化がさらなる寒冷化を招いてしまうのです(この効果を生物ポンプ と呼びます)。

 時に「温暖化すると植物の光合成が活発化するので問題ない(生物による負のフィードバックがはたらく)」という意見を耳にします。実際には陸上植物でもそう単純な話ではないのですが、生物ポンプの効果(正のフィードバックとしてはたらく)まで含めると、とてもそう楽観できるものではないことが分かります。


 さて、この論文では、南極海の海底からコアを採取し、ダスト量と鉄の相関およびそれらと気候との相関を、過去400万年に渡り再現しています(ダストの量は、堆積物中のワックス(植物の葉に含まれる)を用いて再現)。



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上段青:海底の堆積物から再現されたδ18Oの変化。δ18Oは氷床の消長(≒気候)と強い相関があることが分かっている。

上段灰色:堆積物に含まれる植物ワックス由来炭化水素の量≒ダストの量。δ18Oとよい相関がある。

上段赤:堆積物中の鉄の濃度。これもδ18Oとよい相関がある。

下段:海底の堆積物から得られた鉄濃度(赤)と南極のアイスコアに含まれるダスト(黒)の過去80万年分の相関。極めてよい相関がある。

Natureより。


 すばらしいですね、ここまではっきりとダストの量と気温に相関が見られるとは。

 アイスコアは100万年弱のデータしか得られませんが、海底の堆積物なら数百万年分(場所によってはおそらくそれ以上)のデータを得ることも可能です。過去の気候変動を理解するための新たなツールが手に入った、といえるでしょうか。