タイムスケール
気候変動問題―というより地球科学―を考えるとき重要なのが「タイムスケール」。私たちは今、どんな物差しで物事を考えようとしているのか、常に認識しておく必要があります。
現在知られている、過去の地球の気温変化を列挙してみました。なお、グラフは全てGlobal warming art
のHPから引用しました。
図1:過去30年の世界平均気温変化
図2:過去130年間の世界平均気温変化。1950~1980年ごろの低温が目立つが、全体として気温が上昇傾向にあることは間違いなさそう。
図3:過去2000年間の気温変化。線が複数あるのは、再現に用いたデータが複数あるため。いずれの再現でも、中世の温暖期 と近世の小氷期 が目立つ。が、何より20世紀後半からの急上昇が特徴的。
図4:過去1万2千年の気温変化。これも複数のデータがあるため線が複数ある。黒線が平均。1万年前の氷期からの急速な回復と、8千年前ごろの温暖期(完新世の気候最適期
)が目に付く。このスケールになると、現代の温暖化は小さすぎて見えにくくなる。
図5:過去45万年の気温変化。EPICA
、Vostok
とは南極氷床のアイスコア
採取地点の地名。すなわち、このグラフについては世界平均気温ではなく南極の2地点の気温変化を示す。が、当然、地球平均気温と相関があるであろう。赤線は南極氷床の推定量。数万年~十数万年程度のサイクルで、長く不安定な低温期と短時間で急速な温暖化が繰り返していることが分かる。「ノコギリの歯のよう」とよく例えられる。
図6:過去550万年の気温変化。このスケールで見ると、地球は徐々に寒冷化しているのが分かる。また、この100万年間程度は、気候の変動が極めて大きいことも読み取れる。
図7:過去6,500万年の気温変化。特に目立つのは3,500万年前~6,500万年前にかけての高温期。現在の気温より平均で12℃も高温
であることが分かる。なお、このころには北極にも南極にも氷はなく、海面は今から100mも高かったとされる。このスケールになるとプレートテクトニクスによる大陸配置の変化も気候に大きな影響を与える(極地に大陸があるかどうかは地球全体の気候を左右する要素となる)。
図8:過去5億5千万年の酸素同位体比変動(気温変動と一致する)。下の青いバーは、極地に氷床があった時代(厳密な意味での氷河期
)を示す。長い地球史では、現代のように極地に氷がある時代のほうが珍しい。一方、このスケールからははみ出すが、過去に地球は赤道まで完全に凍りついた時代(スノーボールアース
)があったこともほぼ確実とされる。
図1から図8まで並べてみると、何というか、クラクラしてきます。いまさら言うまでもないのですが、現在の地球温暖化問題は何とちっぽけな事か!とはいえ、地球史ではちっぽけでも人類にとっては全くちっぽけではないわけです。
例えば図1を見て、「温暖化は止まっている」ように見える(と考える人がいる)のですが、科学者たちは数年の変動を問題にしているわけではありません。人類史上、数年単位の気温の変動は常に存在し、それに人類は対応してきました。
図5~図8を見て、「過去の地球にはもっと温暖な時代があった、だから温暖化はたいした問題ではない」と思う人もいるかもしれませんが、科学者たちは数万年単位の長いオーダーを問題にしているわけではありません。現代科学は100年以上も先の気候を見通すだけの力はありません。そもそも、数百年数千年先には、文明はもっとスマートに気候変動に対処できるか、滅んでいるかのどちらかでしょう。
現在問題となっている地球温暖化は、数年単位でもなく、数百年単位でもなく、数十年単位の問題である。この視点を忘れてはいけないと思います。
図5を見れば分かりやすいのですが、地球の気温は激しく上下してきました。この1万年間は、平均気温の変動は±0.5℃程度に収まっていて、例外的なほど地球の気温は安定していました。その安定に助けられ、人類は文明を発達させることができたのかもしれません。
今後数十年のうちに、文明は初めて数℃規模の変動を経験する公算が高くなっています。