前回退院してから、
何しろよく眠るようになりました。
昼はちょっと目をつぶると、もうウトウトしてしまいます。
さんざん昼寝をして、そのくせ夜も眠れるのです。
そして朝起きたとき「眠ったー!」という爽快感がない。
おかげで、さっぱり運動もしないでいます。
少ししようかなと思うと寒さの前に簡単に敗北宣言です。
明日の朝(と言うか今晩)は雪だそうです。
明日の朝は少ししかできないけれど雪かきのまねごとをしようと思います。
なお連載「飛行グモ」は今日で最終回です。
明日は今までの連載について思うことをまとめて書きたいと思います。
そのあとは新連載「黒い蝶」が始まります。
【私のフィクション5 =「飛行グモ」の24(最終回)=】
「先生になればいいよ!」突然S美が大きな声を出した。
「工学部だって教職とれるでしょ?K男って思ってたよりずっと優しくて
人の心がわかる人なんだと思う。だから、学校の先生になればいいよ。
F江さんのようにつらいおもいをしてる子って、きっとたくさんいると思う。
そういう子たちを大事にする先生にK男がなればいいんだよ。」
S美は何かにとりつかれたように大きな声で一気に言った。
「先生って、俺が!?」K男はまったく考えていなかったことを言われとまどった。
なにしろ『教師』という職業は、中学生の時考えた将来なりたくない職業の堂々第1位だった。
「そうだよ。どんなに考えてもF江さんは帰ってこない。それよりK男がもっと力をつけて
F江さんのような人が救われたら、F江さんの一生は無駄にならないんだよ。」
S美の声には今までにない説得力があった。
『教師』、今までなかった選択肢にK男の心は震えた。
全くの闇だった未来に一筋の光が差したようであった。
「だけど現実にそんなことが可能なのかな?」K男はまだ半信半疑だった。
「確かどの部にも教職課程があったよ。詳しくは見たことなかったけど。」
S美は妙に張り切って言った。
「私がK男を応援してあげる。とりあえず教職の取り方については全部調べてあげる。」
「おいおいS美姫はさっきまで失恋して死にそうになってたんじゃないの?」
Y介が少し皮肉っぽい声で言った。
「何もしないでいると過去の思い出ばっかり浮かんできてどうしようもないの。
何かとりあえずの目標があれば、少し救われるから。」
「そうか、K男は教師に向かって歩き始めるか。」
Y介が妙にさっぱりとした口調で言った。
「俺は法律や理屈だけではどうにもならない人間の思いがわかる弁護士を目指すよ。
今回のことで俺も学ぶところがあったからな。」
しかしY介はS美にはいたずらっぽい目を向けて言った。
「で、S美姫は今度はK男に向かって歩き始めるのかな?」
「何言ってるのY介は!」S美が慌てて言った。
「K男を応援はするけど、そういうのとは違うからね!」
K男がおどけて、「えーっ俺いつでも待ってるけどなー!」と言うと、
「なっなに!?」暗いのにS美が赤くなっているのがわかるような声を出した。
そして3人は大笑いした。
「あー!見て!赤い線!」S美が夜景の方を見て突然叫んだ。
たまたま見通せる道の信号が一斉に赤になり、
一斉に踏まれたブレーキランプの色と重なって赤い線を作っていた。
それはK男に、正月に盛岡で見た景色を思い出させた。
季節は確実に移ろい、飛行グモの季節が近づいてきていた。
(終わり)