本作の題名に由来する1953年のコメディ映画「悪魔をやっつけろBEAT THE DEVILS」を監督したジョン・ヒューストンとCBSColumbia Phonographic Broadcasting System )ニュース番組のアンカーマンかつアメリカで最も信頼できる人物といわれたウォルター・クロンカイトが殺された。

 現場に赴いたのがロサンゼルス市警の刑事モリス・ベイカー。1958年という時代の物語のオープニングはこのようにして始まる。

 

 モリス・ベイカーが信仰を捨て祈りを捧げなくなったのは、糞尿や吐物の匂いのするぎゅうぎゅう詰めの家畜運搬車の後部に押し込まれ、強制収容所に着いたときに有蓋貨車から彼らを引っ張り出した囚人の落ちくぼんだ骸骨のような顔を見た瞬間、移送中に餓死した妹マグダのうつろな目を見たとき、両親がガス室で殺害されたと知ったとき、同じ村の出身者の死体を焼却炉に放り込むとき、兄のゼエブがドイツ軍のために地雷除去中に爆死したのを知ったとき、隣村出身のラビから姉の一人アナがレイプされて建物から投身自殺したのを知ったときであり悲しみが襲いかかり神の無能に激怒していた。

 

 心に傷を負いながらアメリカに移住した今でも、ユダヤ系に偏見の目があり、赤狩りで名を馳せるマッカーシー大統領の手先となっている下院非米活動委員会の調査官たちの横暴に抵抗しながら、密かに事件の解明に力を尽くす。

 

 そして女優を目指すリズ・ショートとの10年にわたる男と女の関係、そして突然現れたソビエトの諜報員ソフィア・ヴィフロフとのラブロマンス。最終的にソフィアは死に、リズとは別れる運命だった。

 10年間つき合っても愛してると言えないリズ、短い期間でも愛していたソフィア、ジョン・ヒューストンとウォルター・クロンカイトの葬儀がハリウッド・フォーエバー墓地(ここは現存している)で行われた。

 

 ベイカーは葬儀のあと知っている名前の墓標を探しながらぶらぶらと歩いた。晩夏の花の香りにソフィアを思い出した。彼女に対する愛は、彼女の死後も死んではいない。ソフィアはベイカーに、この世には嘘と苦痛と怒り以外の物もあると教えてくれた。そんなソフィアの思い出があるからこそ、教会の信徒の一員で美人のシーラ・アブラモヴィッツを食事に誘う勇気が持てたのだ。しかもそのきっかけとなったのは、ある会堂のラビ、ヤコブ・カーンの言葉「生きることが最高の復讐ですよ」が背中を押した。やっとベイカーにも幸せが来るのだろか。

 

 作中に歌手や関連する曲の記述が多い。ほとんど私の知らない名前だった。黒人のグループのフランキー・ライモン、ハート・ビーツ(黒人)、ビル・ヘイリー・アンド・ヒズ・コメッツ「ロック・アラウンド・クロック」、チャンプス、フラミンゴ、リトル・アンソニー、ザ・ペンギンズ、ボビー・ダーリン、サイモン・ヴィゼンタール、ザ・レイズ、ザ・ボベッツ、ザ・ベルモンツ。

 この中で知っているのは、 ビル・ヘイリー・アンド・ヒズ・コメッツとボビー・ダーリンだけ。特に ビル・ヘイリー・アンド・ヒズ・コメッツの1954年に発売された「 ロック・アラウンド・クロック」のヒットは、ロックンロール発祥の曲といわれ、1956年エルビス・プレスリーが「ハートブレイク・ホテル」をヒットさせロックンロールが世界的な広がりを見せ始める。

 

 ちなみに私は、「 ロック・アラウンド・クロック」を映画「暴力教室」で知ったし、「ハートブレイク・ホテル」は当時AFNという駐留軍向けの放送で知った。懐かしい想い出ではある。

 

 それでは ビル・ヘイリー・アンド・ヒズ・コメッツの「 ロック・アラウンド・クロック」を聴いていただきましょう。

 

 

 著者のジョッシュ・ワイスは、ニュージャージー州サウスジャージーの出身。ユダヤ系の家庭に育ち、大学卒業後はフリーランスのエンターテイメント・ジャーナリストとして(ハリウッド・リポーター)(フォーブス)等に記事を執筆している。本書で作家デビュー。