著/松本健一 牧野出版 1575円


安保闘争もベトナム戦争も知らない世代に、戦後日本の安全保障と米軍基地とのかかわりを、著者の体験を交え分かりやすく語っている。普天間基地の移設を巡る混乱と、その背景にある国民の防衛感覚に疑問を感じた出版社が、緊急出版した。
 独立国でありながら、国内に多数の米軍基地があるのを、「当然だ」と言う国民が多いことに、著者は危うさを感じている。世界は経済よりも国家のアイデンティティーを優先させる時代を迎えているのに、日本は依然として吉田茂元首相が敷いた「防衛よりも経済」の路線を進んでいるからだ。
 著者が育った群馬県太田市には、昭和39年まで米軍基地があり、今の沖縄さながらの様相を呈していた。中学3年で六〇年安保闘争を体験し、「ヤンキー・ゴー・ホーム」を叫んでいたという。著者が、一部保守派から左翼と見られる要因の一つかもしれない。
 勿論、アジアはまだ冷戦構造が終わっていないという現実を、著者は重視する。地政学的に沖縄がアメリカの東アジア戦略の重要拠点となっている以上、基地の全面的な撤去は考えられない。だから、アメリカが一番心配しているのは、日本で反米感情が高まることだ。
 今のアジア情勢で日本から米軍基地を撤去させるには、日本が憲法を改正し自主防衛力を持つしかない。その場合、今の約1兆円の防衛費は、5~6兆円に跳ね上がる。それだけの覚悟と具体策なしに基地撤去を叫ぶ政治家は、無責任のそしりを免れない。
 著者が自主防衛にこだわるのは、国民国家の基本が国軍にあるからだ。日露戦争当時、最強の陸軍を誇ったロシアに日本が勝てたのは、ロシア軍が皇帝の軍隊であったのに対して、日本軍は国民軍だったからだ。一人ひとりが自分の郷土を守るために戦った。そんな明治の先人たちの苦労が、豊かな平成日本では失われてしまっている。その精神の再建こそ重要なのだと、行間から警鐘が聞こえてくるようだ。>