こんにちは、弁護士の松本常広です。
今日は、事務所立地を考える際の商圏人口についてです。
前回、事務所のコンセプトを「地域の住民が徒歩または自転車でアクセスできる法律事務所」と設定したと書きました。
このようにコンセプトを設定すると、必然的に商圏も狭くなります。
徒歩で1~1.5km、自転車でもせいぜい4km程度が限界ではないかと考えました。
そうすると重要になってくるのが商圏人口です。
町弁として独立開業することが前提なので、顧客の年齢などの属性はほとんど問題にならず、商圏内全ての住民・法人(大企業を除く)が潜在的顧客です。
では、弁護士一人が事務所を経営していくうえで必要な商圏人口はどの程度なのでしょうか?
独立開業マニュアルと銘打つ書籍やウェブサイト上の情報を探しましたが、私が探した限り、この点を分析したものは発見できませんでした。
そうすると自分で考えなければなりません。
さすがに人口÷弁護士数では大雑把すぎます。
簡単に思いつくのが、先行事例の調査です。
「地域密着」と謳っている法律事務所を探して分析するというものです。
しかし、この方法には難点があります。
「地域密着」をウリにしている事務所が、本当に地域密着かどうかはわからないからです。
実は大企業の顧問先がいるかもしれません。
何らかの弁護士会内の人脈を持っているかもしれません。
かくいう私自身、現在、商圏内だけから受任しているわけではありません。
もっとも、私の商圏外からの受任方法は、多くの若手弁護士にとっても利用可能な方法なので、いずれ本ブログで書いていきたいと思います。
次に、司法統計の都道府県別新受事件数と弁護士選任率を参考にするという方法もあります。
しかし、この方法は裁判所が関与しない案件について分析できません。
たとえば、昨年の私の事務所の売上のうち、約40%は裁判所が関与しない案件です。
独立開業準備時にこういったことを予測することは困難でした。
そこで行ったのが、エリア分析です。
具体例を挙げていきます。
私の出身地かつ修習地の山口県には、地裁の支部が5つあります。
そのうち萩支部の管轄区域には、大企業がありません。
また、日本海側で、管轄区域外の都市に行くには時間がかかります。
そうすると、萩支部管轄区域内の法的紛争等は、その区域内の弁護士が受任していると考えるのが自然です。
そこで
管轄区域内人口 ÷ 管轄区域内弁護士数
= 弁護士一人が事務所を経営していくうえで必要な商圏人口
という計算式がなりたつのではないか、と考えました。
下の表がその結果です。
参考までに現在の人口も示しています。
過疎化進行中にもかかわらず、この4年で弁護士が一人増えていることに驚きましたが、私が独立開業準備をしていた平成25年8月当時、先の計算式によると、おおよそ3万人が必要な商圏人口ではないかという仮説が出てきます。
もっとも、23区内での開業を目指していたので、以下の点を考慮する必要があります。
①萩支部に比べ23区内では国選弁護・当番弁護、管財人業務等の受任可能件数が極めて低い
②23区内では公共交通の利便性により住民の商圏外への流出が不可避
①の点については、山口県の弁護士が(独立開業当初は別として)国選弁護・当番弁護を売上の柱にしているという話はほとんど聞いたことがありませんでした。
また、萩周辺に高額な管財人報酬が発生する案件が多くあるとも思えませんでした。
一方、一部を除く山口県の弁護士は、かなり裕福だった印象があります。
事務員も弁護士一人当たり1.5人~2人という事務所がそこそこあったように記憶しています。
そうすると、国選弁護・当番弁護報酬、管財人報酬は、弁護士の高額な報酬分や事務員の給与分で相殺されるのではないかと考えました。
こういった感覚的な推論が容易なので、分析対象として萩支部を重視しました。
また、①の点をさらに考慮して分析したのが静岡地裁下田支部です。
下田支部の様子については、下田ひまわり基金法律事務所の前所長が以下のようにまとめてくださっています。
http://www.nichibenren.or.jp/activity/resolution/counsel/depopulation/syoukai46.html
開業準備をしていた頃は、上記のリンク先はまだ存在していなかったので自分でデータを探しました。
当時のデータはもう手元にないため、上記リンク先のデータを萩支部と同じように表にすると以下のようになります。
ここでは単純に管轄区域内人口 ÷ 管轄区域内弁護士数とはしていません。
当時の下田支部には、一般の弁護士3名、法テラス所属弁護士2名、ひまわり基金法律事務所所属弁護士1名がいました。
国選弁護・当番弁護の多くは法テラス所属弁護士が受任していると仮定しました。
そして、若干厳しめに、法テラス所属弁護士は計算から外し、ひまわり基金法律事務所所属弁護士を0.5人で計算しました。
このような分析の結果、シミュレーション上は、見込顧客が商圏外に流出しなければ、2~3万人程度の商圏人口で足りるのではないか、と考えました。
見込顧客の商圏外への流出については、検証することがなかなか困難です。
たとえば、同じ公共交通の発達した都内であっても、法律事務所の多い駅に電車で10分程度でアクセスできる場所と、1月8日のブログで名前を出した狛江駅では流出可能性はかなり違うはずです。
そこで、流出可能性については、具体的な立地によって40~70%の間で変動すると仮定しました。
以上から、商圏人口として5~7万人程度必要との仮説を立て事務所候補地を探すことにしました。
もちろん、商圏内に競合他所が存在しない前提です。
長々と書きましたが、次回ようやく事務所候補地の選択理由に進めます。
それではまた。

