ご覧いただき、ありがとうございます。
このおはなしは引き寄せの法則がちりばめられた物語です。
第一作
読んでいただいているとなお、伝わりやすくはなりますが、単体でも読んでいただける物となっています。
それでは
はじまり、はじまり~
アトラと願いの王国~王家の秘宝~
むかしむかしの
とあるヨーロッパの中世の国
光り輝く朝日が、城の王室の開けたテラスから差し込み、これから始まる二人の男女の道を祝福しているようです。
この日、あらたな国王となったロードは、目の前にひざまずく女剣士のアトラの肩に剣をおいて儀式を行っていました。
「アトラよ、そなたをこの国のナイトとして任命する」
「!」
「アトラ、みんなの願いをこれからも守ってくれるかい」
「ロード…!」
「アトラ…俺は…」
………
それから3ヶ月後
ある朝、ニワトリ小屋の家の男の子ショーンは、近所の馬小屋の家へ走っていきます。
土ぼこり舞う中で、座りながら黙々と作業をしている青い服の後ろ姿の16歳の幼なじみにちょっかいをだしに来ました。
「やあ、アトラ元気?今日のナイト様は蹄鉄(ていてつ)磨きかい?立派だねー」
アトラは朝からの来訪者に気だるそうに、顔だけショーンの方に向けながら
「あら~ショーン。馬の蹄鉄は、ヨーロッパでは扉にぶら下げると幸運のお守りなのよ~。あなたの家にも、おひとついかが?」
「ウチはきっと、そのうちニワトリが金の卵を産むだろうから、それを待ってるよ」
「あはは…はぁ~。しっっかし、この3ヶ月っ…ナイトとしての仕事は、街のケンカの仲裁、城での訓練、あとはあなたのニワトリ小屋の夜間警備とかよ。意外と地味なのね」
奥から馬のエサの牧草をまとめているおじいちゃんが諭しました。
「ナイトの仕事がないってことは、それだけ街が平和だってことじゃないか。わしは、こうして家業を合間に手伝ってくれて助かっとるぞ」
「ま~、ナイトの仕事量だけだと、こりゃお金も大変だわ。うちは蹄鉄もそのうち買い換えられなくなっちゃうよ、ごめんよフィリップ~」
「ヒヒーン」
茶色の毛並みのフィリップと呼ばれた馬は、アトラの心情も察しているように鳴きました。
「それに…あれからロードとも会えてない…引き寄せの魔法だったら、私が会いたいと思っていたら、会える願いは叶えられるのに…」
「アトラ…あれだけ苦難を共にしたロード…今は国王になっちゃって忙しいのかな。アトラのことは大事に思っているだろうけど…もし会えていないとしたら、ロードの方から会おうと思っていない…とか」
「今日のショーンは辛口なのね。あぁ~なんかナイトの大きい仕事とかお金と一緒に、ロードも降ってこないかな~」
アトラがU字型の蹄鉄をくるくる指で回していると、家の外からざっざっと足音が近づいてきました。
アトラの家に鎧を着た兵士がやってきました。
「ナイト、アトラに通達です!3日後の国王陛下の外交へのご出立の護衛を、陛下自らが任命するとおっしゃっています」
「私に?」
「返答はその場で受けてこいと命じられております!」
「(今まで3ヶ月一度も私に会っていなかったのに…今回こんな重要な任務を?!でも…ロードに会える……いかんいかん!私はナイトよ!あくまでも任務として…)承知しました!」
二人だけの車内
アトラたちの住む願いの国から西の森を抜けて、山道を越えた先、馬車で丸2日進んだ距離に、鉄の国があります。この国は名前の通り、鉄鉱石が豊富に見つかるため、鉄器や製鉄技術によって発展した国でした。
ロードは新国王就任挨拶と、これからの強固な二国間の結びつきのために、外交に出るのでした。
2頭の馬を御者が引く馬車には、18歳の黒髪のつややかさが、威厳ある赤いローブとまだ不釣り合いな若き国王ロードと、先代の時代から王を支えるヒゲの大臣、願いの国の豊かさをアピールするためにきらびやかな金属をまとった外交官、そして護衛のアトラが乗っていました。
馬車のまわりを3人の騎兵が囲んで警戒しています。
行きの車内ではアトラは息が詰まる思いでした。
「(ん~…なんだか居づらいなぁ…護衛だから緊張ってのもあるし、高官たちも無口なのよねぇ。なにより…」
馬車の外をじっと見ているロードの横顔をアトラは見つめます。
「(久しぶりに会ったというのに、こっちの方を見ようともしてくれない…やっぱり、王家と市民だから、壁ができちゃったのかしら…)」
それからアトラの思いをよそに、順調に鉄の国に入国することができました。
護衛のためにアトラは、ロードの様々な横顔を近くで見ていきました。
鉄の国の王家と談笑し
これからの両国についてキリッとした顔で話し合う様子、
鉄の国の民に笑顔を向ける姿…
アトラは少しだけ胸が痛くなりました。
鉄の国での滞在を終えて、夜の山道を帰路に着く、揺れる馬車の中では、アトラの向かいの席に二人で座る大臣と外交官はすっかり寝てしまっていました。
ロードの横顔も暗くてよく見えませんが、うつむいて眠ってしまっているようです。
アトラは青い月明かりの外を見ていました。
「(ロード…私が想像する以上にもう立派に国王としてやっているのね。私はちゃんとしたナイトになれているかしら…あんな横顔があったなんて…。私にも向けられるようになるかしら…)」
「…アトラ…」
「え…?」
アトラが横を向くと、若き国王はじっとアトラを正面から見ていました。
「ロー…陛下、その…眠れませんでしたか。どうぞ…おやすみになられてください」
「君は、オレがどうしてあれからずっと3ヶ月間も黙っていたかと思っているだろうな」
「そ、それは!陛下はお忙しい身で、私のような者とは…かかわ…よぅな…も、もんじゃ」
「ロードでいいよ。それより、二人を起こさないように静かに聞いてくれ。本来なら、引き寄せの魔法でオレたちは会えるはずだった。だが、君の考える通り、オレの方が君に会えなかった理由があるんだ」
「え…」
「こいつを見てくれ」
「こ、これは…すごく大きい…綺麗」
暗い車内の中でも、それは黄金の輝きを持つとわかる、とても美しく磨かれたこぶし大の涙型の宝石をつけた首飾りが、王家の紋章の描かれた手袋をつけたロードの手のひらから現れました。月明かりに当たると黄色い光を反射しているのがわかります。
「これは”ヒックスの黄石(きせき)”と呼ばれる王家に伝わる秘宝だ。普段は城の宝物庫にあるが、正式な式典などの際は、歴代の国王が身につけていたものらしい」
「へ~とても綺麗。でもこれが理由ってのはどういうこと?私が王国のお宝だと知ったら、私が盗んで売り払うとか?たしかにうちは今はお金が必要だけども…」
「フフフ、それはグッドだね。こいつの価値は、宝石としてもそうだが、その云われの方に意味があるんだ」
「云われ…?それってどんなこと?」
「何でも、『王族の者には守護が与えられるが、それ以外の者には災いを与える』といわれているらしい」
「災い…?」
切り裂かれる静寂
「災いを与えるってどういうことなの…」
アトラは今一度小さな声で、驚きを抑えて聞きました。
「あぁ、このことは秘密なんだが、この云われは、オレと大臣と、君しか知らない。実際にどんな災いが起きるのかはわからない。だが願いの王国であるこの国では、信じて感じていることが叶っていくことは多くの人が知っている。願いならいいが、逆に災いなんて言葉を知ったら、それも信じられて叶っていってしまうだろう。オレがまるで、他国を呪いに行ってるようにすら、思えるだろうな」
「そんなことないわ、ロード。あなたはそんな人じゃないことはみんな知っている。それに、そんな危ないモノなら、外してしまえばいいじゃない」
「だが、もう一つの云われも本当だったんだ。亡くなったオレの父さん…先代の王は、以前、雷が目の前に落ちて、まわりの兵士は大けがだったが、ヒックスの黄石を身につけていたオレの父さんはまるでこれが守ってくれたかのように、無事だったんだ」
「なんですって、そんなことが…。それで信憑性があるってことね」
「そして、オレの父さんだけでなく、それまでの王も守られてきたらしい。かつて願いの王国に、空から降ってきた願い星から作られたのだとか。おとぎ話みたいだな。引き寄せの魔法がかかっているような秘宝だ。だからこそ、王族でない君に災いなんて起きて欲しくなかった。だから会えなかった。それなのに、伝えてしまってすまないと思っている。しかし、今回の初外交を立派にやりとげるには、君にそばにいてほしかった。国王になったのも君のおかげだ。君に見届けてもらいたかった。オレも君がいてくれて心強かったんだ。」
「ロード…ありがとう話してくれて。悩んでいたのね。……大丈夫よ!私はナイトなのよ。あなたが任命してくれた、正真正銘の。災いが呼ぶ悲劇からだって、あなたを守ってみせる」
「アトラ…すまない。オレはどこかで君を失うのを怖くなっていたかもしれない。いつも信じることの強さを教えてくれるな君は」
「いいのよ。あなたは、立派に王として務めているわ。民の私を守ろうとしてくれた。王には王の。ナイトにはナイトの道をお互いがやっていけばいいのよ。それにあなたの外交をしている姿が立派だった…」
「アトラ………ありがとう」
ロードの顔が、王からかつてのロードに戻った瞬間でした。
3ヶ月ぶりに正面からまっすぐにアトラに見せるロードの笑顔は、アトラにとって秘宝よりも輝いて見えました。
「ロード…その…(急に恥ずかしくなってきたー)」
ロードはじっと見つめています。
「ロード…あの…」
そのとき。
「…!ロード伏せて!!」
ヒヒーン! グワラッ!!
馬が急に立ち止まり、馬車が大きく揺れました。眠っていた大臣と外交官も目を覚まします
「なんだ!いったい!」
ぐわっ
馬車の外を護衛していた騎兵が倒れる音が聞こえます。
「これは、いったい!急に身体が重い…引っ張られるようじゃ!」
「指輪が、ネックレスが…首が絞まる…!」
大臣と外交官も馬車の床にうつ伏せに張り付くような引っ張られ方をしています。
アトラも剣を携えていた腰のあたりが急に重くなります。ロードも馬車の座席に縛り付けられているようでした。
(奇襲か!)
アトラは腰の重い剣を引きずるようにしながら、馬車の外へ出ます。
するとそこには銀色の短髪をなびかせる、黒い服の女が馬車の道をふさぐように立っていました。
騎兵や御者たちもみな、地面に引っ張られるようにうつ伏せになって立ち上がれないようです。
馬たちも倒れてしまい、動けるのはアトラだけのようです。
暗闇に笑みを浮かべる女にアトラは話かけます
「あなた!何者!」
「アハハァ…願いの王国の護衛たちはたいしたことないわねぇ。こんなに簡単にやられてしまうなんて。私がどこの誰かなんて、これから死ぬあなたには関係のないことだわ。『願いの王国の王様は、鉄の国の外交の帰りに、山道で事故に遭って亡くなりましたとさ』そういう筋書きなのよ」
「なんてことを…!させない!」
腰の剣を抜くアトラ、しかしその瞬間剣は重く地面にひっついてしまいます。剣と地面の間にアトラの手は挟まってしまいました。
「なんなの!これは!」
「フフフッ。我が鉄の国には豊富な鉄鉱石の中から作られた他の国にはない強力な磁石を作ることができる…。この磁石は、わずか直径1、2cmで20kgもの鉄を吸い寄せることができるの。それをこの一本しかない山道に、3m級のものを埋めたのよ。来るときから監視していたからねぇ」
「なんですって!我が鉄の国って…!」
「あんたはそこで這いつくばってなさい。あとでじっくりなぶってあげる。それより私の狙いはこっちなのよ」
「くっ…ロード!逃げて!」
銀髪の女は馬車の中のロードに近づいていきます
「ほぉ…これが願いの王国に伝わる秘宝…我が国の官僚が欲しがるわけだ。しかし…なぜこの石だけ、磁力の影響を受けずに浮いているのだ…これが秘宝たるゆえんか。」
「やめろ…触るな…きっと………良くないことが起きるぞ…」
ロードは潰れそうな声で忠告をします。
「くくく…これだけの輝きを持つ宝石は!やはり我が鉄の国にあるのがふさわしい!!」
銀髪の女が手を伸ばして触れた瞬間
バチィィィィィン!!!!
突如闇夜が昼間になったほどの輝きを放ちながら、ヒックスの黄石からあふれた光が、銀髪の女を馬車の前まで吹き飛ばしました。
「ぎゃああああああ」
女は感電したかのように手が黒焦げになっています。
【後の科学という世界の話では、超伝導体という金属があるといいます。
極低温まで冷やされた金属は、電気抵抗がゼロになりその超伝導素材でつくられた電気回路をつくれば、中の電気が失われることなく、保持され続けるそうです。
超伝導体は、さらに磁力の影響を受けず、マイスナー効果と呼ばれる、宙に浮くように見える現象を引き起こすのです。
そして自然界には存在しないはずの超伝導体は………】
ロード「これが、災いの正体か…雷をずっとその輝きの中に閉じ込めていたとはな…王族を守る…王家の紋章の手袋は、電気を通さないゴムというものでできていた…。もっとも雷の直撃ではなく、側撃雷を閉じ込めていたから、そこまでにはならなかったのか。空からやってきた不思議な星の性質ということか」
【隕石の中から驚くべきことに常温で超伝導体になる金属が見つかったというのです。引き寄せの法則のように、宇宙には私たちの世界の常識が通用しないものがまだまだあります。】
銀髪の女「くそぉ。こんな!こんな!せめて王の命だけでも!」
アトラ「!」
磁力の影響を受けない、木製のとげをつけた棍棒を銀髪の女は取り出し、座席から動けないロードの頭に向かって振り下ろした瞬間
アトラ「ふぅ…やはり馬の蹄鉄は、幸運のお守りだったわ。フィリップ!」
ベキャァァァッ!
銀髪の女が馬の後ろ蹴りによって大きく吹き飛ばされました。
「ぐわぁぁぁ」
ヒクヒクと倒れる銀髪の女
アトラ「馬車の馬を一頭、うちの馬にしてくれてありがとう、ロード。護衛料と、馬の賃料もいただけるなんて。うちが蹄鉄を皮製にしていて助かったわ。まさかお金がなくて鉄製じゃなかったことが、こんなかたちで引き寄せるなんて…恥ずかしい!」
ロード「あはは、グッドだね。これからも、皮製の蹄鉄でよろしく頼むよ。」
フィリップ「ヒヒーン」
特別な存在
願いの王国に帰ったアトラたちは、ケガの手当と、事の顛末について、城で協議していました。
ヒックスの黄石はロードと大臣、アトラの秘密のまま、宝物庫にしまわれたのでした。
外交官「あーせっかく高い貴金属を身につけていたのにーあんな山道に捨てていくなんてー涙涙涙」
アトラ「しかたないでしょ、磁力が強すぎて、引き剥がせずに、ずらしていくしかできなかったんだから。指輪よりも指の方を置いていきたかったかしら?」
外交官「ヒーそれはご勘弁をー涙涙涙」
大臣「ほほほ」
ロード「あれから、伝令を使って確認できたんだが、今回の件は、鉄の国の一部の高官が差し向けたことで、国王たちは関与していないそうだ」
アトラ「良かった。あなたの外交が無駄になるとこだったわね」
ロード「あぁ。しかし、今回もアトラ、君がいてくれたおかげで心強かった。ありがとう」
アトラ「いえ、そんな。今回は実家が馬屋で良かったと思うわ」
ロード「あはは、グッドだね。それで、今回のことでアトラ、君にはもっとそばでナイトの仕事をしてもらいたい」
アトラ「ロード…陛下!」
ロード「アトラ…」
アトラ「(あれ、この提案って、そういうことよね。特別ってことよね、王族に近いってことは私、あなたにとって特別ってことよね)ドキドキ…」
ロード「アトラ…そう…、そしたらフィリップを呼びやすいしな!」
アトラ「へっ?」
ロード「王族を守った由緒正しき馬、グッドだね。これからもフィリップを呼んでもいいだろ?な?」
アトラ「も~!今回ほど実家が馬屋で良くないと思ったわよ~!!」
おしまい