日が傾くにつれ波が少し高くなり、海風が冷たく感じ始めた。一泊二日の短い同期旅行も散会の時となる。自宅が同じ方角の者同士、車を乗り換え帰途に着こうとする。

不思議な事にS子が自分と同じグループにいる。S子の自宅は全く逆方面のはずだ。仲間に聞くと、向かう方角に友達がいて、今晩はそこに泊まるそうだ。自分の嫌な予感が杞憂に終わり、内心ホッとした。幸い乗り合う車も違った為、途中のインターチェンジで、S子の車とは離れ、自分は自宅である会社の独身寮に着いた。


自分の部屋に戻り、ベッドに腰をおろす。煙草をふかし、昨日の夕方からの旅行を回想する。短い行程だったのに凄く長く感じるられる。今も身体に残るS子の感触。あの部屋での行為。起きてから帰宅するまでの気まずい思いと葛藤。一晩だけの夢みたいなものと自分の中で昇華させようと、煙草を消した。


一週間のたまった衣類を洗濯機に放り入れ、テレビを観ながらビールを開ける。グッと喉に流し込む一口目が美味しい。ボッーとしながら、ひとときのくつろぎを楽しむ。

そこに電話が鳴った。同期から夕飯の誘いだろうと思い受話器をとる。声の主はS子だった。

「これから会わない?近くにいるんだけど…」唐突なS子。

「友達の家、行くんじゃないの?」

「友達はまだ帰ってこないから、それまで私、ひとりなんだぁ。ねっ、会おうっ!」

強引なS子の誘いは正直、少し迷惑だった。

「これからKと夕飯食べ行く約束したから、今日は無理。」とっさに嘘が出た。
「じゃあ、その後は?」

「何時に終わるか約束できないからダメだよ。友達はいいの?」

「いいの。友達の家は何時になっても大丈夫。家に帰んなくていいから、遅くまで遊びたいの」なかなか引き下がらないS子にだんだん嫌気がさしてくる。

「今日は疲れたし、ほんと悪い。こんどにしよう。」今、S子を断る為に、約束する気はなかったのに、思わず次があることを口にした。
「じゃあ、わかった。今日は諦める。そのかわり今度は絶対に会ってね。楽しみにしてるからっ!」

S子の勢いに負け、会うつもりはないと心に決め、電話を切った。

その時は、決意と裏腹に、自分がS子の身体に溺れてゆくとは夢にも思っていなかった。