目を覚ますとS子はいなかった。一人で勝手に深い眠りに落ちた事を怒って、出て行ったのだろう。顔を合わせるが気が引けた。

階下に降りると、昨晩、早々につぶれて寝入った仲間が起きている。自分とS子との秘め事を知る由もなく、今日の予定について、無邪気にあ~だこ~だ言い合っている。

最後まで飲んだくれていた強者達は、早速に目を覚ます事が出来ないと見えて誰一人として姿を見せない。
そこにS子が現われた。

眠そうと言うよりむしろ爽やかな表情で、皆に愛想を振りまいている。周りの仲間にかける声のトーンもいつになく優しい。

S子と目が合う。

「おはようっ!」と当たり前の挨拶を交わしたが、S子の眼差しとその声は奇妙なくらい更に優しい。

頼んでもいないのに、コーヒーを自分だけに持ってくる。昨日の宴会の時にはみられなかったS子の淑やかさに、えも言えぬ違和感を感じた。


皆が揃って朝食を取った。S子は当然の様に自分の脇にすわり、甲斐甲斐しく給仕し気を遣う。周囲の目がその行動に、うすうすと異変を感じ始めていたはずだ。自分は徐々に煩わしさと苦しさを覚え始めた。
  

コテージ全てに施錠し、帰途につく。まだ早い時間なので途中、近くの海によることにした。誰も海に入る用意はしていなかったが、各々が砂浜の波打ち際で子供のように戯れた。

S子も例外ではなく、押しては引く波の動きに合わせて砂浜を駈けていた。少し大きな波がS子の足元をすくい、体が大きくふらついた。倒れそうになり、たまたま傍にいた自分に向かって身体ごとあずけ抱きついた。

昨晩、触れ合ったばかりの身体が服を通して密着すると、あの時の営みの記憶が息をふきかえして燃え上がる。S子の身体を再び欲し始めた。