秋になり、過ごし易い日々が続くようになったある週初め、野球部上がりの同期のYが会社の保養所に遊びに行く企画を立て、仲間を募っていた。特に予定のない週末をつぶすには格好の行事。参加する仲間が多少、気になったが快諾した。




メンバーは同期入社の男6人、女6人。出来すぎた感のある人数の組み合わせである。しかし、メンバーを聞いて愕然とする。やはり今、最も警戒するS子がメンバーにいたのである。参加する他の五人の女たちは必ずしもS子と相性の良い組み合わせではない。果たしてうまくやれるのだろうか?嫌なS子のことなのに、他人事ながら心配になった。




金曜日の夕刻、同期が会社まで持ってきた3台の車に乗り合い、同期旅行が始まった。会社の保養所に向かう道中、食料と沢山のアルコールを仕入れ、街灯が少なくなった林道を駆け抜ける。週末ともあって、一週間の疲れと心地よい開放感が皆の気持ちを高揚させ、テンションが下がることなく目的地に到着した。




おのおのグループに別れ、保養所のコテージに収まってゆく。周りのコテージに宿泊者はいなく、今夜は自分たちだけの空間である。シャワーを浴び、着替えを済ませたものから宴会場に設定したコテージに集まってくる。そこに当然S子もいる。この間、自分に触れたムチムチした太股をさらけ出した短パン姿のS子は、あの日のことがなければ何の感情も持たなかっただろう。今夜は妙に気になって仕方がない。



宴会がスタートし、食事はそこそこの飲み中心の様相。自宅に帰る必要のないその夜は、普段見られないリラックスした表情で酒をあおる仲間達。酔いが進むにつれて、訳のわからぬ言動を催すやつが出てくる。頼んでもいないのに自ら服を脱ぎだす男のH、同期の女の子の髪を食うW、それを見て逃げ回る女子たち。修羅場と化してきた。



馬鹿騒ぎしている中、いつもの飲み会の風景と異なることに気がついた。あのS子が主役になろうとでしゃばってこないのだ。やはりS子のペースで事を進められないメンバーがいるため勝手が違い、様子を伺っているのだろう。S子の酒を飲むペースが上る。



酒に呑まれて撃沈する輩がぽつぽつで出だした深夜、この場に及んで飲み続けられるメンバーは半分になった。自分も弱い口ではなかったので生き残ることができていた。顔を真っ赤にしたS子も未だに起きている。孤立感を漂わせ、それを紛らわすかの様にタバコを燻らせながら、髪をいじるS子。酔いによって自分の感覚が異常をきたしたのか、S子が無性にいとおしく見えてきた。



しばらくしていつもの調子が出ないS子は、自分のそばに寄ってきた。この間の再来かと、身を構える自分。しかし、今日は少し余裕があった。


「ごめんね。この間のこと怒ってる?怒ってるよね。」初めて見るしおらしげなS子。正直、ドキッととした。



「なんか、あたし、ダメなんだよねぇ。嫌だって思われると思っていても、ああいうことしちゃうんだぁ。ホントごめん。」



これがS子の本音なのか疑わしいところも感じたが、いつになくおとなしいS子を同情する感情が芽生えた。



「じゃあさぁ、酔い覚ましにジュースでも買いに行くかっ?」とS子を励ましついでに近くの自販機まで誘う。コテージの明かりが見えなくなるくらい二人で歩いた時、S子が自分の腕にしがみついてきた。S子の胸が腕にあたる。想像もしたこともなかったが、そのふくらみは驚くほどやわらかい。無言のまま平静を装う自分はS子と夜道を歩く。同時に自分の体の奥からふつふつと湧き上がる欲情を抑えるのに必死だった。




コテージに戻り、起きている同期に買ったばかりのジュースを差し出す。




「このジュース買うのに随分、時間かかってねぇか?お前ら途中でなんかした?」ありもしないネタでからかってくる悪友。



「なんにもないよ!なぁ?」とS子に同意を求める。S子も機転が効いた反応で酔っ払いたちを煙に巻く。S子の頭のよさをあらためて感じ、理由のない親近感を覚える。酔いに任せてS子を引き寄せ、




「これくらいくっついて歩いてたけどね」とS子の肩を抱く。そのときまで、自分は冗談のつもりだった。