世の中は夏休みシーズンとなり、自分も久しぶりに帰郷。待ち焦がれた彼女とあえるのが最大の楽しみであった。彼女と会えない日々の連続は、精神的にも肉体的にもストレスを与えていただけに単なる里帰りとは違う何かがあった。

数ヶ月ぶりに顔を合わす二人。総合職として上場企業に勤めている彼女のT子の表情は、残業疲れがたたってかすこしやつれた様に見える。

「仕事、がんばりすぎじゃないか?」

「ううん、大丈夫だよ。」笑顔で答えるT子。その笑顔は以前と変わらず、思わず胸がキュッとし、その場で抱きしめたくなった。

久しぶりに一緒に手をつなぎ、思い出の街を散策する。二人向かい合って、学生時代に良く行った居酒屋でグラスを交わす。普通のカップルが普通にデートをし、普通に食事をする。しかし、その時の自分にとっては何気ない行いが凄く新鮮で、思わず涙がこぼれそうなくらい感動していた。お酒の勢いも手伝って、二人が昔のような会話のやりとりになるまでそう時間はかからなかった。

お互いがほろ酔い加減になり、どちらともなく相手の体を求めような雰囲気になったので、店を出ることにした。

「今日は帰らなきゃダメ?」

「泊まりは無理だけど、ちょっとぐらい遅いのは大丈夫。仕事で朝帰りする事だってあるんだから」と明るく振舞うT子。

二人は久々に体を合わせて、変わらぬ愛を確認するためにホテルへ入った。

いつものように二人でシャワーを浴び、いつものように二人でベッドに忍び込む。お互いの体を触り、その懐かしい感覚を呼び戻す。自分のペニスはいつも以上に元気で、T子の体も敏感になっている。T子の体を強く抱きしめ、むさぼるように愛撫した。秘部を軽く撫でただけなのに、T子はビクンと体をしならせる。懐かしいこの反応、この感覚。ずっとT子に会いたかったし、こうやって二人の愛を確かめたかった。


女性の体に触れることが久しくなかった自分は早くもT子の体が欲しくなる。待ちきれなそうに勃起したペニスにゴムを着け、T子の秘部にそっとあてがう。いよいよT子の中に押し入れようとしたそのとき、

「ダメ、やっぱりできない。」とT子から思いもよらぬ言葉が発せられ、身を引き離す。


「どうした?どうしたの?」唖然としてこれ以上なにもいえない自分。


「久しぶり会って、久しぶりにこういうことするの当たり前だと思う。でも、私、できない。私も同じなんだけど、セックスだけが目的な様な感じがして、何かいやなの!」


愛を確認するというのは建前。セックスしたくて彼女に会いに帰って来たやましい考えが見抜かれた気がして、自分はそれ以上なにも出来なくなった。



その日以降も短い里帰り中は、ほとんど毎日、T子と遊びに行った。でも、自分から体を求めることはなかったし、T子もいたって普通を装った。何か今まで感じたことのない違和感を覚えながらも、楽しい休暇は終わりの日を迎えた。T子が空港まで送ってくれ、フライトまでのわずかの時間、就職で離れ離れになるかつての様に別れを惜しんだ。


「じゃあ、今度は正月に帰ってくるから」


「待ってるね」と寂しそうな顔で手を振るT子。


離れ離れにになる寂しさなのか、何かを予兆する寂しさなのか、自分には整理がつかない思いで故郷をあとにした。