カツラ美容室別室/山崎 ナオコーラ


読んだ本:『カツラ美容室別室』 

著者:山崎 ナオコーラ

出版社:河出書房新社

読んだ日:2010/1/12

ページ数:153頁


まとめ:

作者自身と性別が違う主人公の作品を読んだのは太宰 治以来、これが二回目。


私が初めて読んだ太宰作品は『斜陽』だった。

無論、主人公は男性だと決めつけていたわけで、

読み始めたとき、「えっ?主人公って女性なの!?」と、

太宰デビューでいきなり顔面パンチを食らったのを覚えている。

男性の「おままごと」を垣間みているようで、最初は気色悪かったが、

慣れていくうちに、太宰の描く女性的な繊細さと傲慢さが癖になった。

作者が異性を主人公として描くと、こうも、性が強調されるのか。


『カツラ美容室別室』の男性主人公も、

気持ち悪いほどリアルに男性性が表現されていて、驚いた。



著者の山崎 ナオコーラさんは、多分、女性。

失礼、

絶対、女性です。(Wiki調べ)


飲み会でコーラショックでも飲みながら考えたのか、

かなり独特なペンネーム。


そして、本の題名も装丁も、独自性があり、かなり洒落ていて、

出版社の戦略だと、懐疑心ムラムラしつつも、馬鹿正直に釣られました。

でも、釣られて良かった。


私の好みに「ど」ストライクなセンスの作品だった。






本題...

ネクラだけどノリが良いサラリーマン、淳之介、

熱くドライな美容院店長・桂さん、

憎めない天真爛漫すぎる自由人・梅田さん、

美人ではない感受性が豊かな女性美容師・エリ、

八方美人で世渡り上手な女性美容師・桃井さん。


「桂美容院別室」を舞台に個性豊かな登場人物たちの交流を描いた作品。








冒頭の部分を少々拝借。


“「桂美容室別室」の店長、桂孝蔵は、

他人の髪の毛を懸命にカットしているが、

自分自身はカツラをかぶっている。

あまりにもはっきりとカツラだとわかるカツラなので、

「美容師なのに『カツラ』」というのを売りにして

商売をしているのではないか?と客たちは思う。

そこでいろいろ聞いてみたいところなのだが、

カツラのことはなかなか本人には質問できないのが世の常だ。”






壮 絶 。







読み始めた途端に「ナオコーラワールド」に蹴落とされた。

そして、顔面強打した。


まさかの文章センス、

まさかの男性主人公、

まさかのナオコーラ。



たった153頁しかないのに、

普通の作家さんが書いたら上下巻になるくらいの内容がぎっちぎちに詰まっている。


一文一文の密度と完成度が半端じゃない。

良い意味で、全部、キャッチコピー的なノリ。

惹句で構成された文章は、

サラッと読んで、感覚的に楽しむのもいいし、

スローに読んで、奥行きを味わう事も出来る。

やるじゃない、ナオコーラ。(笑)





表現の仕掛けがとても細やかだと思う。

主人公の他者に対する脳内での呼び名、

それだけで、主人公の思考が表現されている。


それと、感情や雰囲気、事象に対する比喩が本当に素晴らしい。

安直ではないけれど、小難しくもなく、絶妙。


ストーリーも良いけど、

文の魅力を味わう作品だと思う。






個人的に、主人公の佐藤 淳之介が、

『ノルウェイの森』の主人公ワタナベくんと被った。

奥手だけど大胆で、責任から逃げる優柔不断なエゴイスト。

女性に対する態度も似ている気がする。

ワタナベくんを平成風にしたのが、佐藤 淳之介かもしれない。

というか、上記に挙げた彼らに共通する特性って、大体の男性に当てはまるかも。


ナオコーラさんの描く男性像は、本当にリアルでバーチャル。

例えるなら、メロンパンのメロンの味。

嘘っぽいという意味ではなくて、本物より本物らしいと感じさせるものがある。








※以下、ネタバレあります。


















主人公の心理に、

「共感する部分」と「理解できない部分」が明確に別れた。


(一部要約)

主人公は、ちょっと親しい女友達が異性と親しげにしているのを見て、

嫉妬心に苛まれる。

しかし、その後、女友達が親しげにしていた異性が、彼女の兄だったことを知る。

その安堵感に、主人公は彼女に交際を持ちかけることを思いつく。

まっすぐに好意が伸びていないにしても、お互い大人なのだから、

テンションが上がらないままに付き合いをスタートさせても良いのではないか、と

考えながら主人公は、その夜、眠りについた。

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不覚にも、無責任な嫉妬心の心理には共感してしまった。

でも、その後の主人公の心理志向性は 理 解 不 能 。


なぜそこで、「付き合う」という思考に発展するのか。

なぜ、惚れていないうちに半強制的に恋をスタートさせようとするのか。


未熟者の私には分かりません。

というか、そんな思考わかりたくもない。

男性の思考って、本当に理解不能。

リアルな男性の意味不明さが上手く表現されていると思った。












余談...

無限に広がる世界を、『私』によって切り取って作られた有限的な世界、

それが、小説だと思う。

だから、小説には、私がリアルに感じるような世界の広がりが感じられない。

そもそも私は、私を超越し存在するこの世界を断片的にしか感じ取れない。

私の認識できる世界は小さいな、と、

カツラをかぶった桂さんの存在によって、気づかされました。









ありがとうございました。